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三権分立は権力の均衡によって新たな権力を生みだす

配分する[9] ――正義 について考える【20】

2011年4月28日(木)

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法と権力

 さて、一七七六年に独立宣言が出されるとともに、北アメリカの一三の植民地は一つの国家にまとまる必要性を感じていた。独立宣言は、イギリスにたいする反逆を意味したし、反逆罪は死刑で罰せられるからである。イギリスの報復と戦争は避けがたいものだった。そこで諸州はイギリスからの防衛と統一国家の設立を目指して一七八一年には、植民地同盟を設立したのである。

 しかしこの同盟は弱体であった。同盟の大陸会議は、独立戦争が終了した後にはあまり開かれなくなり、開かれても決議にまでいたらないことが多かった。通貨を発行する権限が与えられていたが、その財源を確保するための徴税権は認められていなかった。また通商を規制することができず、行政府も存在せず、行政権を執行する大統領も実質的にはいなかった。また司法権もなかったのである。

 この弱体な同盟への反省から、アメリカ植民地は強力な権力をもつ連邦政府を設立することを決めたのだった。この政府は、イギリスの国王ジョージ三世のような過剰な権力を所有するのでもなく、植民地同盟のような弱体で無効な権力を所有するものであってもならなかった。だから新しい憲法を作成して、新たな権力を作りだす必要があったのである。

 この国家は、すべての国民の自由を保護し、「人はおのおの平和と安全のうちで、かつ可能なかぎりの最初の経費で、その職業に従事し、その勤労の成果とその財産の生み出すものを楽しむ」[1]ことができる正義の国家である必要がある。この国家の目的がもっとも好ましい形で実現するようなシステムを作りだすこと、それが憲法の役割である。

権力分立の目的

 そのために目指されたのが共和制の体制の設立と、ロックとハリントン、そしてモンテスキューの原理にならった権力の分立システムである。このシステムは、植民地同盟と比較してはるかに強力な権力を構築しながらも、イギリスのように一つの権力に過剰な力を与えないようにすることを目指したのだった。

 独立戦争に砲兵隊の大尉として参加し、合衆国憲法制定会議の開催に重要な役割をはたした政治家のハミルトンは、モンテスキューの名前をあげながら、アメリカの憲法において「権力を政府の別々の部門に均整よく配分すること、立法上の均衡と抑制の導入、非行のないかぎり在職しうる判事によって構成される裁判制度、人民自身に選出された議員から構成される立法部の代表制、これらは、まったく新しく発見されたものであり、近代になってから大きく進歩し、完成したものである」[2]と強調していた。

 ここで注意する必要があるのは、権力を法によって制限することは困難だということである。植民地の憲法では、「憲法の成文の中に各部門の境界を明確に規定し、権力のもつ他を侵害する傾向にたいしては、この紙上の防塞を信じてまかせる」[3]ことが試みられた。しかしそれはあくまでも「紙上の防塞」にすぎないことがすぐに明らかになったのである。

 そもそも権力は法の網の目をかいくぐって行使されるだろうし、法がそもそも権力の行使を禁じてしまったのでは、政府の意味はなくなる。政府は権力をしっかりと行使すべきなのである。だから国家のシステムを決定する憲法の役割は、権力を制限するのではなく、権力を分立させて、分立した権力がたがいに他の権力の濫用を防ぐようにするシステムを作りだすことである。「権力は権力に、強制力は強制力に、力は力に、利害は利害に」(ジョン・アダムズ)対立させなければならないのである。

 モンテスキューが描いた三権分立の構想は、「政治の一部門による権力の独占を防ぐばかりではない。それは、新しい権力を絶えず生み出す一種のメカニズムを、統治の中心そのものに据えつける」[4]ことを目指すものだった。三権分立は権力を制限するのではなく、権力の均衡によって、新たな権力を生みだすことを目的とするのである。

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「三権分立は権力の均衡によって新たな権力を生みだす」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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中村 克己 元ルノー副社長、前カルソニックカンセイ会長