「人生の諸問題」

「日本ではネットで金儲けしようとするやつが嫌われる」「そう、いわゆる『嫌儲』ですね」

シーズン3・24歳年下のIT論客に聞く 最終回 ゲスト 濱野智史さん(情報社会研究者)

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2011年5月2日(月)

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 小田嶋隆さんと濱野智史さんの対談シリーズ、6回目の今回が最終回です。

 個人主義の国といわれるアメリカからやってきたインターネット、そしてツイッターにフェイスブック。こういったITテクノロジーが日本に入ってくると、その姿はいつの間にか日本の「世間」という“服”に合わせて形を変えていくようです。

 なぜ日本ではネットからスターが生まれないのか。その反面、「初音ミク」といった架空のアイドルが誕生し熱狂的に支持されるのはなぜか。そして、「グルーポン」や「のまネコ」騒動が“事件”になるのはなぜなのか。電子書籍と本の行方は…。

 今回はお二人の対談の集大成。日本のネットメディアの特性が、会話の中からはっきりと浮かび上がってきます。

前回から読む)

―― 6回にわたる濱野智史さんと小田嶋隆さんの対談では、ブログ、ツイッターやフェイスブックでやり取りされる「評判資本」という、資本の新しい概念が見えてきました。

 しかし、結局、貨幣経済社会に生きる私たちの本音は、「最終的にどれだけお金を得られるか」というところにあります。さまざまなネットサービスが注目を浴びる中で、評判資本の換金については、新たな芽がでているのか。最終回は、その辺りからお聞きしていきたいと思います。

濱野 そこのところのパラダイムシフトは、うーん、難しいところですね。

小田嶋 今、分かりやすいところでは、アフィリエイトなんだろうけど、じゃあアフィリエイトだけなのか、と言うと、今後の展開は難しいですよね。

濱野 智史(はまの・さとし)
1980年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院・メディア研究科修士課程修了。専門は情報社会論。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員を経て、現在は、インターネット関連コンサルタントの「(株)日本技芸」でリサーチャー。主にウェブサービスにおける情報環境の分析や、ネットユーザーの実態調査を行う。著書『アーキテクチャの生態系』で第26回テレコム社会科学賞・奨励賞を受賞。(写真:陶山勉、以下同)

濱野 これもアメリカと日本の比較文化論に関係してきてしまうのですが、例えばアメリカでは、動画サイトで作品を公開した場合、視聴者に見られた分だけ稼ぎ出された広告料金を、動画のアップロード者に渡す、という仕組みがありました。これは、「ネットで人気を博した人には直接お金が入るんですよ」といったシンプルな仕組みで、ある種アフィリエイトの一種ですよね。

 ネットで何らかの表現をする人が、こうしてフェアに利益を得るという仕組みは、アメリカのように個人主義でやっている国だと、どんどん出てきやすいわけです。個人で何らかの作品を作って、ネットに公開して、その分だけ収益を得るというプロセスがそのまま機能するからですね。ところが日本では、その辺りが簡単に行かないんです。

小田嶋 まず日本では、ネットで金儲けしようとするやつが嫌われるでしょう。

濱野 そう、嫌われるんです。いわゆるネット用語でいう「嫌儲(けんちょ)」ですね。

小田嶋 「グルーポン」のお節料理のときの騒がれ方も、すごくそれがありましたよね。

濱野 ああ、まさしくそうでしたね。

※ グルーポンのお節料理の件=共同購入による低価格システムを運営するサイト「グルーポン」を介して、横浜の飲食店が正月用のお節料理を「通常の半額」という触れ込みで販売したが、宣伝の写真と、実際に届いた内容の落差が激しく、ネット上に購入者からの怒りの声が続出。貧相な実物写真や衛生管理が疑われるような製造現場のスナップがネット上に公開され、消費者庁が乗り出すまでの騒ぎに発展した。

小田嶋 あれだって、振り返ってみれば、単にお節の出来が悪かった、ということで、それほど大した話じゃないんだよね。ひどい話だとは、もちろん思うけど。

―― ネットに掲載された、見本写真と、実際に届いたお節の写真との落差は、インパクト大でした。

「みな平等じゃなきゃいけないという圧力がある」

小田嶋 まあ、でも、ひどいにはひどいですね。

濱野 あの写真はなかなかのものでしたよね。

小田嶋 ものすごくひどいんですけど、ひどいにしても、2ちゃんねるなんかにあんなに100も200もスレッドが立つほどのことかと言えば、そこまでのひどさでもなかろう、とは思うのね。

濱野 まあ、お正月早々に、めでたい気分を台無しにされた、ということですよね。

小田嶋 それはあるけど、あれの本質は、やっぱりネットで儲けようとする人に対して、日本市民の嫌悪感が爆発した、ということだと思うんです。

濱野 そのとおりだと思います。日本では実際、ネットを使って個人がぐんとお金を稼ぐ、みたいなある種のサクセスストーリーを忌み嫌う傾向がありますよね。

小田嶋 世間に生きる私たちはみな平等じゃないといけない、という圧力がある。

濱野 アメリカですとフェイスブックが出る以前、「マイスペース」というSNSが人気を博していたのですが、そこで音源を公開していたミュージシャンが、プロデューサーに見出されてビルボードの1位を取った、というような出来事が普通に起こっていたんです。矢沢永吉じゃないですけど、「成り上がり」がネットでもまったく可能な世界なんですね。

 でも日本だと、ミクシィとかで曲を公開して、そのまま有名になった人って、いないじゃないですか。少なくとも実名でバーンと作品を公開して、オリコンにランクインするほど有名になった人というのはあまり聞かない。

―― そうなんですか。

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著者プロフィール

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社/日経ビジネス人文庫)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

人生の諸問題

日本語は今や、ウェブ上で全世界でもっとも流通している言語だといわれるまでになった。しかも、読む人間より、書く人間の方が圧倒的に多いのだという。それほどまでに人々が文章を書いている一方で、相手に何かを伝えることの難しさは、むしろ増えているように思える。「誰もが発信者」、そんな史上初のシチュエーションを迎えた今、いったい私たちの「コミュニケーション」はどこに行くのだろう。広告の世界でクリエイティブディレクターとして活躍する岡康道氏と、コラムニストの小田嶋隆氏が、高校時代の同級生という縁から始まった「伝達」について、ゆるゆると語り尽くす…はずだったのだが?

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