(前回から読む)
―― 6回にわたる濱野智史さんと小田嶋隆さんの対談では、ブログ、ツイッターやフェイスブックでやり取りされる「評判資本」という、資本の新しい概念が見えてきました。
しかし、結局、貨幣経済社会に生きる私たちの本音は、「最終的にどれだけお金を得られるか」というところにあります。さまざまなネットサービスが注目を浴びる中で、評判資本の換金については、新たな芽がでているのか。最終回は、その辺りからお聞きしていきたいと思います。
濱野 そこのところのパラダイムシフトは、うーん、難しいところですね。
小田嶋 今、分かりやすいところでは、アフィリエイトなんだろうけど、じゃあアフィリエイトだけなのか、と言うと、今後の展開は難しいですよね。

1980年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院・メディア研究科修士課程修了。専門は情報社会論。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員を経て、現在は、インターネット関連コンサルタントの「(株)日本技芸」でリサーチャー。主にウェブサービスにおける情報環境の分析や、ネットユーザーの実態調査を行う。著書『アーキテクチャの生態系』で第26回テレコム社会科学賞・奨励賞を受賞。(写真:陶山勉、以下同)
濱野 これもアメリカと日本の比較文化論に関係してきてしまうのですが、例えばアメリカでは、動画サイトで作品を公開した場合、視聴者に見られた分だけ稼ぎ出された広告料金を、動画のアップロード者に渡す、という仕組みがありました。これは、「ネットで人気を博した人には直接お金が入るんですよ」といったシンプルな仕組みで、ある種アフィリエイトの一種ですよね。
ネットで何らかの表現をする人が、こうしてフェアに利益を得るという仕組みは、アメリカのように個人主義でやっている国だと、どんどん出てきやすいわけです。個人で何らかの作品を作って、ネットに公開して、その分だけ収益を得るというプロセスがそのまま機能するからですね。ところが日本では、その辺りが簡単に行かないんです。
小田嶋 まず日本では、ネットで金儲けしようとするやつが嫌われるでしょう。
濱野 そう、嫌われるんです。いわゆるネット用語でいう「嫌儲(けんちょ)」ですね。
小田嶋 「グルーポン」のお節料理のときの騒がれ方も、すごくそれがありましたよね。
濱野 ああ、まさしくそうでしたね。
※ グルーポンのお節料理の件=共同購入による低価格システムを運営するサイト「グルーポン」を介して、横浜の飲食店が正月用のお節料理を「通常の半額」という触れ込みで販売したが、宣伝の写真と、実際に届いた内容の落差が激しく、ネット上に購入者からの怒りの声が続出。貧相な実物写真や衛生管理が疑われるような製造現場のスナップがネット上に公開され、消費者庁が乗り出すまでの騒ぎに発展した。
小田嶋 あれだって、振り返ってみれば、単にお節の出来が悪かった、ということで、それほど大した話じゃないんだよね。ひどい話だとは、もちろん思うけど。
―― ネットに掲載された、見本写真と、実際に届いたお節の写真との落差は、インパクト大でした。
「みな平等じゃなきゃいけないという圧力がある」
小田嶋 まあ、でも、ひどいにはひどいですね。
濱野 あの写真はなかなかのものでしたよね。
小田嶋 ものすごくひどいんですけど、ひどいにしても、2ちゃんねるなんかにあんなに100も200もスレッドが立つほどのことかと言えば、そこまでのひどさでもなかろう、とは思うのね。
濱野 まあ、お正月早々に、めでたい気分を台無しにされた、ということですよね。
小田嶋 それはあるけど、あれの本質は、やっぱりネットで儲けようとする人に対して、日本市民の嫌悪感が爆発した、ということだと思うんです。
濱野 そのとおりだと思います。日本では実際、ネットを使って個人がぐんとお金を稼ぐ、みたいなある種のサクセスストーリーを忌み嫌う傾向がありますよね。
小田嶋 世間に生きる私たちはみな平等じゃないといけない、という圧力がある。
濱野 アメリカですとフェイスブックが出る以前、「マイスペース」というSNSが人気を博していたのですが、そこで音源を公開していたミュージシャンが、プロデューサーに見出されてビルボードの1位を取った、というような出来事が普通に起こっていたんです。矢沢永吉じゃないですけど、「成り上がり」がネットでもまったく可能な世界なんですね。
でも日本だと、ミクシィとかで曲を公開して、そのまま有名になった人って、いないじゃないですか。少なくとも実名でバーンと作品を公開して、オリコンにランクインするほど有名になった人というのはあまり聞かない。
―― そうなんですか。
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