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「スーちゃん」と「スーさん」の間にあるもの

2011年5月6日(金)

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 田中好子さんが亡くなった。享年55歳。私と同年齢だ。
 印象的だったのは、NHKのニュースが彼女の訃報をその愛称とともに伝えていたことだ。
「元キャンディーズの『スーちゃん』こと女優の田中好子さんが……」
 7時のニュースは、たしかにそうアナウンスしていた。
 一方、キャンディーズ時代の同僚だった「ランちゃん」こと伊藤蘭さんは、弔辞の中で、故人に対して「スーさん」と呼びかけている。
 この呼称の違いには、いかなる事情が介在しているのであろうか。
 今回は、アイドルとそのファンの間に流れる「時間」について考えてみたい。
 特定の信仰を持たない日本人は珍しくない。が、アイドルにカブれた経験を持っていない日本人は、そんなに多くないと思う。われわれは、誰もが、多かれ少なかれ、アイドルやスターに憧れる一時期を通過して大人になる。人はバカな時期を潜り抜けないとマトモな大人になれない。私はそう思っている。勘違いかもしれないが。

 キャンディーズには多少個人的なかかわりがある。
 彼女たちがデビューして間もない頃に、ナマでステージを見たことがあるのだ。
 時期はおそらく最初のレコードが発売された直後のキャンペーン時期――1973年の秋か冬だ。私は高校2年生だった。

「上野の赤札堂にキャンディーズが来るから見に行こうぜ」
 と、ある日の放課後、同じ陸上部のN山に誘われたのだ。
 その時点で、私はたぶんキャンディーズという固有名詞を知らなかった。ついでに言えば上野の赤札堂も。

 私は、
「なんだそりゃ」
 という感じの返事をしたと思う。
「だから上野にアブアブ赤札堂っていう安売りの洋品屋があって、そこの地下の特設ステージで、キャンディーズが歌うんだよ」

 情報源はN山が定期購読している「月刊明星」の中の「スター月間スケジュール」とかいうページだった。見ると、たしかに米粒大の活字でキャンディーズの予定が書いてある。

 それがどうした? と私は思ったが、結局、その赤札堂に同行することにした。上野までは都営バスに乗って15分ほどの距離だったし、バス料金も30円(たぶん)だったからだ。それに、私は退屈していた。荒れていない時の高校生は退屈している。退屈は高校生の背中をいつも悪い側に向かって押す。避けようのないなりゆきだ。

 現場に到着してみると、特設ステージは、単なる売り場だった。普段は傘や肌着を売っている地下一階の一角に、高校の教室の半分ぐらいの広さのステージ(っていうか、50センチほどの高さの台にシートをかけたもの)をしつらえて、その舞台の上でキャンディーズが歌っていた。

 観客はわれわれを含めてざっと100人。内訳は、熱心なファンらしき面々が20人ほどと、あとは近所のおばさんだった。全員が立ち見。キャンディーズが何を歌ったのかは覚えていない。というのも、私は、すぐそばにいるとびきり綺麗な女の子に目を奪われていたからだ。

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「「スーちゃん」と「スーさん」の間にあるもの」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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手嶋 龍一 作家・ジャーナリスト