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「多くの異なった利害が存在する」ことで正義が守られる

配分する[10] ――正義 について考える【21】

2011年5月12日(木)

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二院制

 アメリカ合衆国の憲法ではさらに、議会のうちにも上下両院を設けることによって、さらに権力の分立が行われていることも忘れてはならない。上院は、各州に二名の議員を割り当てるシステムで、州を代表する色彩が強い。さらに「大統領の締結する条約の承認権を下院に与えず、上院にのみ与えている」[1]ので、「外交の府」の傾向があるとされる。

 下院は人口に比例して選出される議員で構成される。下院には、歳入に関する議案の先議権が与えられているので、「財政の府」とされている。日本とは違って権限の優劣関係はなく、役割分担をしながら、「両議院が比較的平等な立法権を有している」[2]のである。

 この二院制については当時からさまざまな議論が展開されてきた。憲法制定において重要な役割をはたしたジョン・アダムズは、一院制には次のような欠陥があると主張した。第一に、「一院制の議会は、個人のあらゆる悪徳、狂気、弱点の影響をうけやすい」[3]。個人の気分、情熱、熱狂、特性、偏見などに左右されて、性急に決断を下し、愚かな判断をしがちである。

 第二に、野心をもちすぎて、いずれは常設の議会にしてしまうだろう。これはイギリスの市民革命の長期議会でみられた欠陥であり、議員の任期が最初は一年ごとだったものが、七年になり、生涯を通じて議員となりたがるだろう。

 第三に、統治のためのすべての権力が一院に集中すると、自分の利益に適った恣意的な法律を定めるようになるだろう。そしてすべての法律をみずからの利益に適うように恣意的に執行し、すべての議論を自分の都合のよいように判断するだろう。アダムズは「政府に一院しかない場合には、人民は幸福になることも、長いあいだ自由を維持することもできない」[4]と考えていたのである。

最善の国家

 アメリカ合衆国は共和国であり、人民が主権を保有するという原則からは、二院制を採用する理由はないし、一院制度にこれほどの敵意を抱く必要もない。その背景にあったのは、これまで検討してきたキケロとマキアヴェッリの主張する混合政府の思想である。

 キケロもマキアヴェッリも、王政、貴族政、民主政が混合してバランスのとれた国家が最適なものであると主張してきた。そしてイギリスの植民地であったアメリカも、独立した後にもイギリスのシステム、国王において王政の要素が確立され、貴族院において貴族政の要素が維持され、庶民院において民主政の要素が維持されるというシステムを理想としていたのである。

 しかし共和国のアメリカに王をおくことはできない。共和国のアメリカにイギリスのような貴族制度を設置することはできない。それではどうすればよいか。そこで考えられたのが、大統領において王政の要素を維持し、上院において貴族政の要素を代表させ、下院において民主政の要素を代表させるという方式だった。

 三権分立の制度は、大統領が行政府、議会が立法府、裁判所が司法府を代表する制度である。しかしこの三権の分立と均衡とは別に、大統領が王、上院が貴族、下院が大衆を代表するというバランスが構想されたのだった。

 共和国であるアメリカでは、貴族院というイギリスの上院の名称は嫌われたが、議会が一院であることで、立法の権力が集中することが懸念されたのだった。両院制を巡る論争で、ある共和主義者は、「わたしはあらゆる種類の貴族制を忌み嫌うものである。だからこそ、立法府で一院制を採用することに反対する」[5]と語ったのである。

利益の多様性

 さらに上院は貴族的な要素を代表するだけではなく、下院と対立させることで、国民の多様な利益を代表できると考えられていた。「アメリカ合衆国憲法の父」と呼ばれるマディソンは、「正義こそ政府の目的である」[6]と主張しながら、「強大な党派が容易に結合して、脆弱な党派を圧倒しうるような政治形態の下にある社会」[7]ではこうした正義が守られないために、このような状態を防ぐ必要があることを指摘する。そのためには国内に「多くの異なった利害が存在する」[8]ようにすること、そしてそれぞれの多様な利害は、立法府を二つに分けることで実現できると考えられた。

 具体的にはこの利害の多様性を立法府に反映させるために、議員の選出方法を変えるという措置が採用された。ハミルトンはこれについて「下院は直接人民によって、上院は州の立法部によって、大統領は人民によりその目的のために選出された選挙人によって、それぞれ選出されるので、ある特定の階層の有権者を特別扱いするように、これらの各部門を結びつける共通の利害が生まれる可能性はほとんどない」[9]と説明している。

コメント1件コメント/レビュー

エドマンドバークは”単純な制度は単純というだけで欠点がある”といってました。私もその通りだと思います。日本の議会制度は衆参大同小異、これではいけないし、首相公選制を叫方々も考えていただきたいです。(2011/05/12)

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「「多くの異なった利害が存在する」ことで正義が守られる」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

エドマンドバークは”単純な制度は単純というだけで欠点がある”といってました。私もその通りだと思います。日本の議会制度は衆参大同小異、これではいけないし、首相公選制を叫方々も考えていただきたいです。(2011/05/12)

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