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「一般に人間の愛着は、力あるところにしか向かわない」

配分する[12] ――正義について考える【23】

2011年5月26日(木)

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分権制

 なお権力の分割は、このような政府の制度において、さらに連邦と州のあいだで実現されているだけではなく、全国の州の地方自治においても分権制が浸透していることを、トックヴィルは指摘している。地方の州は州の内部の事柄について自治を行っているのであり、州の権力のある事柄については、連邦政府の干渉を拒むのである。

 州はさらに郡に分割され、郡はさらにタウンに分割される。というよりも、地方の統治の実権はタウンにあり、複数のタウンにかかわる事柄ついては郡に実権があり、複数の郡にかかわる事柄については州に実権があり、複数の州にかかわる事柄については連邦政府に実権があると考えるべきだろう。

 トックヴィルは、この地方自治のメカニズムがアメリカの民主主義の根幹にあると考えていた。タウンにおいて、人々にみえない形で権力が行使されているというのである。日本国憲法でも、主権在民が原則となっているが、それはあくまでも原則にすぎない。革命後のアメリカのタウンでは権力が実際に民衆のレベルで行使されていた。その内容を少し詳しくみてみよう。

タウンの自治

 トックヴィルが観察したタウンは四〇〇〇名から五〇〇〇名の住民で構成されていた。そしてタウンの事柄はすべてタウンの住民の全員が参加する会議で決定されていた。これを招集する権限があるのは理事であるが、住民が開催を要求した場合には理事はこれを拒めない。

 理事は毎年、選挙で選ばれる。その際に、タウンの重要な役職が任命される。タウンの日常的な業務は、この役職が担当する。課税額査定官、収税人、保安官など、多数の役職が定められていて、「住民は誰しも任命されたならこれらのさまざまな職務を引き受けなければならず、断れば罰金が課せられる。だが公職の多くには俸給が支払われるので、貧しい市民も損失をこうむることなく公務に時間を割くことができる」[1]という。

 これについては日本の団地やマンションの理事会を考えてみるとイメージしやすいかもしれない。団地の住民は俸給の支払いをうけることはないが、順番に理事にあてられて、さまざまな役割を分担して実行する。団地の内部の事柄はこの理事の集会で決定されるのである。それが警察の役割までも遂行するところに、アメリカの特殊性がある。西部劇によく出てくるが、保安官はその町の住民の一人で、その役に適したものと判断される人物が、理事から任命されて、バッジをつけるわけである。

 タウンでは、この公務はたがいに独立して完全な権限を行使する。この公務の遂行について、上部の組織である郡、州、連邦政府からの干渉はない。そして人々は自分のタウンの出来事に強い関心をもっているので、公務の遂行に熱心である。トックヴィルは、このタウンの運営において、権力が分散された形で行使されると指摘している。そしてこの権力の行使から、自主的で自由な生活と郷土愛が生まれるのである。

 「一般に人間の愛着は、力あるところにしか向かわないことをよく知らねばならない。愛国心は征服された国では長くつづかない。ニュー・イングランドの住民がタウンに愛着を感じるのはそこに生まれたからではなく、これを自ら属する自由で力のある団体とみなし、運営する労を払うに値すると考えるからである」とトックヴィルは語っている[2]

自由と分権

 トックヴィルは、ある国で権威の力を低下させるには二つの方法があると指摘する。一つは社会から自衛の権利と能力を奪い、権力をその原理において弱めるという方法であり、「このようにして権威を弱めることをヨーロッパでは一般に自由の建設と呼んでいる」[3]。もう一つの方法は、「社会からその権利のいくつかを奪い取ったり、社会の営みを停止させるのではなく、社会の諸力の行使を複数の人の手に分散させることである」[4]

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「「一般に人間の愛着は、力あるところにしか向かわない」」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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