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パニック回避の代わりに彼らが失ったもの

2011年5月27日(金)

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 東京電力は、今月の15日、福島第一原子力発電所の1号機について、以下の発表をした。すなわち、15日現在の暫定的な解析結果によれば、1号機は、地震発生から16時間後には燃料の大部分が溶融・落下する、いわゆる「メルトダウン」の状態に陥っていた可能性が高いというのだ。

 続いて、24日には2号機と3号機がメルトダウンしていたことも認めている。東電がまとめた報告書によれば、1~3号機のすべてで、燃料棒はほぼ完全に溶融・落下し、原子炉圧力容器には穴が開いている。1号機と2号機については、格納容器にも損傷が及んでいる可能性がある。なんということだろう。

 メルトダウンが起こってから、それを確認するまで2カ月以上が経過していた計算になる。

 なるほど。
 東電が、震災以来、事態を把握していなかったのだとすると、この2カ月の間、われわれは行き先不明のバスに乗っていたことになる。計器はめちゃめちゃで、ドライバーは意識不明のままハンドルの上に突っ伏していたわけだ。

「方向とスピードはわかりませんが、走行中であることは確認済みですのでご安心ください」
 と、バスガイドは言う。私は安心できない。当然だ。
「飛び降りると怪我をしますよ」
 そうかもしれない。でも、乗っていれば、いずれ何かに衝突するんではないのか?
 いや、彼らとて、いくらなんでも、ある程度は状況を把握していたはずだ。そう考えるのが自然だ。だって、専門家なんだから。ということは、結局、東電および政府の事故対策本部は、事態の収拾をはかりながら、メルトダウン発表のタイミングを推し量っていた。そう考えた方が、多少は安心できる。
 でも、それはそれで別の問題が生じる。
 この前提だと、東電はウソをついていたことになる。でなくても情報を隠蔽していた、と、これはこれで後味が悪い。われわれは、今後、彼らの発表について、すべて裏読みせねばならなくなる。

 本当のことを言うと、私は、自分が驚いていないことに驚いている。
「メルトダウン?」
 発表を聞いた時、私は、落ち着いていた。
「それより松坂のヒジは大丈夫なのか?」
 ぐらいの力加減だ。

 もしかして、狙いは、ここにあったのだろうか。
 つまり、彼らは、国民の危機意識が麻痺するタイミングを待っていたわけだ。
 事実、「驚く」ということに関する私の閾値は、2カ月前に比べれば1兆倍ほどに上昇している。
「ほう。原発の港湾内に滞留している汚染水が14兆ベクレル、と」
 私は驚かない。
「それより浦和レッズの5試合連続未勝利はどこまで続くんだ?」

 人は驚き続けることができない。
 びっくりし続けた人間はじきにぐったりする。

コメント112件コメント/レビュー

この記事で書かれていることは、多くの国民にとってはすでに3月15~20日の間に考えていたことだと思います。今になって色々出してこられて、やっぱり隠していたんだ、と諦めて受け取りました。私は専門家でもなく、権力も財力も無いのでなんの力もありませんが、この問題をうやむやにしないように注視していくために、3月11日からの事の次第(発表や観測値、外国のデータ等)を記憶・記録して忘れないことで、厳しく見てゆこうと思っています。本当なら、まるで他人事でいる方や、判断すべきなのに伝書鳩みたいになっているえらい立場の方々を取り換えたいのですがそうもいかないでしょうから現実を見つめて自分のこととしてがんばってほしいものです。(2011/05/30)

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「パニック回避の代わりに彼らが失ったもの」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

この記事で書かれていることは、多くの国民にとってはすでに3月15~20日の間に考えていたことだと思います。今になって色々出してこられて、やっぱり隠していたんだ、と諦めて受け取りました。私は専門家でもなく、権力も財力も無いのでなんの力もありませんが、この問題をうやむやにしないように注視していくために、3月11日からの事の次第(発表や観測値、外国のデータ等)を記憶・記録して忘れないことで、厳しく見てゆこうと思っています。本当なら、まるで他人事でいる方や、判断すべきなのに伝書鳩みたいになっているえらい立場の方々を取り換えたいのですがそうもいかないでしょうから現実を見つめて自分のこととしてがんばってほしいものです。(2011/05/30)

今の耐久性の悪い原発は自民党が作ったものなのに、それに対する非難は一切出ないのが不思議。 その自民党はリーダーシップの欠如、初動指揮の不備で民主党を責める。その前に責任をとらなければいけない自民党議員がいるだろう。何れにせよ、国を憂う人材が政界にいないのは判った。 マスコミの幼稚化はもう我慢の限界で、チャンネルを一般に開放して、サッカーリーグの様に出来の悪い局は二部リーグ(地上波以外のCSの空きチャンネルなど。)に落として限られたチャンネル数を勝ち取る切磋琢磨させるべきだろう。既得権益で慢心しているものに、気概も正義も共にかけらも有るはずが無い。 (2011/05/30)

パニックになったかどうかは別にして信頼を失ってきているのは間違いありません。福島第一発電所の状況からすると事実確認が困難で把握しきれないことは明白でしょう。真実がわからない以上憶測でしかものを言えない。憶測は人それぞれなのでいろんな意見が飛び交っています。東電と政府の発表はわかっている真実に基づいたとしても、楽天的だなぁとおもっていました。その結果常に想定より悪い方悪い方へと移行しているわけで、マスコミもパニックの原因者になることをおそれてか危険側に立った報道は少ない。真実がわからないという前提であれば、事実隠蔽ではなく、思慮の無さを指摘するべきです。報道とは裏腹に現場では炉心の融解を阻止すべく注水を行っていたということがなぜデーター上から推測できなかったのか。検証する努力を東電幹部と政府、報道関係者は怠っていたといってもよいのではないか。(2011/05/30)

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