「人生の諸問題」

「君は優秀だ」と言われたら、家族を犠牲にしちゃいますか?

「青春の5本」その4 「グッド・シェパード」に見る米国の組織と個人

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2011年6月20日(月)

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 好きな映画を語り合っているうちに、男にとっての「帰属意識」というテーマが浮かび上がってきた「人生の諸問題・青春の映画編」。今回はそれを象徴するかのような、かのデ・ニーロ監督、マット・デイモンとアンジェリーナ・ジョリー出演の映画「グッド・シェパード」を題材に、それを掘り起こしてみます。

(いったいこれって何の話? という方はぜひ前回からどうぞ)

 グッド・シェパード(2006年米国、ロバート・デ・ニーロ監督)に描かれたCIAの人材スカウトってのはね、日本でいうと、ある日、早稲田大学教育学部に在学中の、大学生の小田嶋隆さんの許にCIAが訪れて、「あなたが選ばれました」と告げるんだよ。

小田嶋 え。

 知力、体力、言語能力、家族関係、友人関係、思想信条、学業成績、ともかく何から何まですべて調べはついていて、こいつは大丈夫だな、となる。それで「CIAにどうぞ」と言われるわけ。

―― それ、断ることもできるの?

 いや、断るとかどうとかじゃなくて、「どうぞ」と言われたら行くでしょう。だって国家機関から、君は優秀だ、と言われたら、応えようと思うじゃないですか。

男性編集者その1 オレ、行きます。相当誇らしげな気分で行きます。

男性編集者その2 オレもひと言でさーっと行きます。そうか、オレってそんなにか…って。

 100%行くよね。小田嶋だって行くでしょう。

小田嶋 行くだけは行く。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏(写真:大槻純一、以下同)

 たとえ3日で帰るにしても(笑)、小田嶋だって行くだけは行くよね。(小田嶋さんが新卒入社の企業を8カ月で辞めた経緯はこちら)僕は瞬時に行く。一切の就職活動を辞める。ああ、これで決まったなって。

小田嶋 まあ、断ることもできなくはないんだろうけど。…怖いよね、そこまで調べられているなんて。

 洗いざらい。しかも家族には明かせないんだよ。だから結婚するにしても、表面上は普通の何とか鉄鋼とかに勤務ということになっていて、ただ輸出課とかだから、異常に出張は多いですよ、と。でも本当はスパイだから、殺されるかもしれないし、殺さなきゃいけないときもあるかもしれない。じゃあ給料がいいのか、といえば、そんなことはない。そのうち奥さんが「この人、何か隠している」と勘付くようになり、メンタルをやられ、すると子供の教育にもいいはずがなく、家庭は崩壊していく。そうやって、さまざまな不幸を抱えながら一生やっていく、という運命になるんです。

誇りのためなら、見返りは不要

―― ということが分かっていても、断らないですか。

 映画の中に、「CIAに定冠詞の『the』が付かないのは、なぜだか知っているか?」と、CIAの男が語る場面があるの。「それは『God(神)』に『the』が付かないのと同じことだよ」と言って、暗い廊下を去っていくんだけど、カッコいいわけです。つまり、我々は志だけでやっている、と。あるいは幻想かもしれないけれど、世界の自由社会を支えているのは自分たちなんだ、という誇りだけで一生を過ごすという話なの。

小田嶋 究極の無私ですね。

 すごいよね、これ。

小田嶋 究極の無私がCIAって皮肉だよね。

注・「グッド・シェパード」
 1961年、キューバ共産主義政権の転覆を目論んだピッグス湾作戦が、情報漏洩で失敗。その指揮を陰で執った有能なCIA諜報員、エドワード・ウィルソンが窮地を脱しようとする物語を軸に、“いかにして彼は有能なCIA諜報員になりしか”を、錯綜した人間関係と冷酷なエピソードの中で、複合的に描く。「グッド・シェパード」とは「よき羊飼い」の意。

小田嶋 俺、岡がこの対談用に出してきたタイトルということで、昨晩DVDで観たんだけど、ともかくとても分かりづらかった。毎日たくさん映画を観ている人は、あんな不親切な作りでも付いていけるのかな、って首をひねってしまったくらい。ほら、漫画のコマ割りが分かる人と分からない人とがいるじゃない? 長いこと漫画を読んでないのに、たまに少女漫画なんか読んだりすると、あの複雑なコマの処理が分からなくなって、付いていけなくなるんだけど、DVDを観ていて、同じ悲しみを抱きましたね。

―― 映画を語る前に、まず筋に付いていけなかった、と。

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著者プロフィール

岡 康道(おか・やすみち)

岡 康道

クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー。
1956年生まれ。80年早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてサントリー「BOSS」「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など、時代を代表するキャンペーンを手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。
99年に日本最小最強のクリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を川口清勝、多田琢、麻生哲朗とともに設立。主なクライアントに、サッポロビール、大和証券、富士ゼロックス、リクシル、NTT東日本、大和ハウス、NTTDoCoMoなど。TCC最高賞、ADC賞、ACC賞、ニューヨークADC賞、クリオ賞など受賞多数。TCC会員、ニューヨークADC会員。現在、雑誌ポータルサイト「magabon」にて、エッセイ連載中。近著に「ノンタイトル」(電子書籍)

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社/日経ビジネス人文庫)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

人生の諸問題

日本語は今や、ウェブ上で全世界でもっとも流通している言語だといわれるまでになった。しかも、読む人間より、書く人間の方が圧倒的に多いのだという。それほどまでに人々が文章を書いている一方で、相手に何かを伝えることの難しさは、むしろ増えているように思える。「誰もが発信者」、そんな史上初のシチュエーションを迎えた今、いったい私たちの「コミュニケーション」はどこに行くのだろう。広告の世界でクリエイティブディレクターとして活躍する岡康道氏と、コラムニストの小田嶋隆氏が、高校時代の同級生という縁から始まった「伝達」について、ゆるゆると語り尽くす…はずだったのだが?

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