「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

スーパークールビズは革命なんだな

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2011年6月10日(金)

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 「スーパークールビズ」について、私の周辺にいる同世代の男たちは、異口同音に反対の意を表明している。
「くだらねえ」
「ポロシャツとか、何の罰ゲームだよ」

 意外だ。
 就業経験の乏しい私には、どうしてポロシャツが罰ゲームなのか、そこのところの機微がよくわからない。
「どうしてダメなんだ?」

 彼らは説明する。
「あり得ないんだよ。単純な話」
「ポロシャツで会社行くくらいなら、いっそフーテンの寅で行く方がまだマシだってことだよ」
「でも、お前だって普段着からネクタイってわけじゃないだろ?」
「だからさ。たとえば、お前がどこかの編集者と打ち合わせをするとして、パジャマで出てこいって言われたら、その通りにするか? しないだろ?」
「……話が違わないか?」
「いや、違わない。オフィスでポロシャツを着るってことは、自由業者の生活経験に換算すれば、パジャマでスターバックスに行くぐらいに、赤面なミッションだと、そういうことだよ」

 私はまだ納得がいかない。
「そうかなあ。アロハにサンダルで出社したい社員だっていると思うぞ」
「お前は何もわかってないんだよ。プー生活が長かったから」
「アロハだのサンダルだので出社したいと思ってるのは、ぶら下がりのデモシカ社員だよ」
「でなきゃ、じきにやめるつもりでいる半端者。窓際のトッド・ラングレン」
「釣りバカ日誌の浜ちゃんとかはどうだ?」
「お前な。ありゃファンタジーだぞ。不思議の国のアリスと同じジャンルのパラレルワールドのお伽話。それぐらいわかれよ」
「ハマサキはともかく、社長があんなヤツと仲良しだったりする会社は2年で倒産するな」

 なるほど。了解した。
 スーパークールビズは定着しないだろう。若手社員の中には歓迎する組の人間もいるのだろうが、オヤジ連中は黙殺する。とすれば、このプランはおシャカだ。というのも、ビジネスはオヤジのフィールドだからだ。オヤジに嫌われた商品が成功することはそんなに珍しくない。が、オヤジの歓心を買わないビジネスマナーが標準化することはどうあってもあり得ない。

 クールビズ問題は、ファッションの問題ではない。体感温度の問題でもない。エアコン設定温度の高低でもなければ、省エネルギーの是非でもない。オフィスにおけるあらまほしき服装をめぐる問題は、職場のヘゲモニーの物語であり、地位とディグニティーと男のプライドを賭けたパワーゲームであり、結局のところオヤジがオヤジであるためのマインドセッティングの問題だ。

 ということであれば、ファッション業界の人間に意見を求めたところで、何の役にも立たない。諮問委員に学者を招いても無駄だ。ましてや、官僚なんかに、意味のある仕事ができるはずもない。

 肝要なのは、自分たちが背広を着ている理由について、そもそもの源流にさかのぼって、根本から問い直すことだ。そうしないと、正しい答えにたどりつくことはできない。

 わたくしども日本のビジネスマンは、なにゆえに背広を羽織り、革靴を履き、なぜ、ネクタイを締め、テカテカの顔のアブラを150円のハンカチで拭っているのか。そしてまた、どうしてオレらは、その顔のアブラを右手経由でマウスの表面に塗りたくりながらでないと、執務を続行することができないのか。そういったあたりの諸々について、よろしく考えを深めなければならない。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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