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地震後、人間への強い信頼感を表現したカント

18世紀、リスボンの地震が起こした思想界の激震(下)

2011年6月30日(木)

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 カントはこの年に『天界の一般自然史と理論』を匿名で刊行したばかりであり、地震のしばらく後に、地震にかんする三編の論文を「ケーニヒスベルク週報」に発表した。「地震の原因について」「一七五五年末に地球の重要部分を震撼させた地震のもっとも注目すべき条件の歴史と自然誌」「地震論続編」である。どれも地震についての自然科学的な研究であり、別刷りになってよく売れたらしい。

 最初の「地震の原因について」では、地震が天罰であるという通俗的な意見を否定しながら、地震を地球力学のメカニズムの問題として考察する必要があることを強調する。そして「われわれの足元にひそむ災害が隣人にたいしてもたらした破壊のあとを目撃すると、これを恐れずに、それに代えるに同情をもってする」[1]と、自然科学的な「観察と研究が与える知見について説明を下すこと」[2]を試みるのである。

地震の原因論

 カントは地震の原因は、地球の内部が空洞になっていることだと考える。「まず第一にわれわれの注意を引くのは、われわれの立っている大地は中空であり、その空洞はほとんど一つづきで広範な地域にわたり海底の下にまでつづいていることである」[3]と指摘する。地震も火山も津波もこの空洞にかかわりがあるのであり、火山の噴火はこの空洞部にたまった空気が何らかの理由で排出されるのだと考えた。

 地震についてもカントは、「二五ポンドの鉄のやすり屑と同量の硫黄をとり普通の水がこれをこねて、これを地中に一フィートないし一フィート半ほど埋めて土をしっかりとかけておく、二、三時間もたつうちに濃い煙の立ち上ぼるのがみられ、地面は振動し、炎がほとばしりでる」[4]と説明している。現在はプレート理論で説明されるメカニズムも、当時の科学的な知識ではこの程度のことが言えたにすぎなかった。それでもこのような観察から地震学が始まってゆくのである。

第二論文

 第二の「一七五五年末に地球の重要部分を震撼させた地震のもっとも注目すべき条件の歴史と自然誌」では、「地震論」でも指摘された津波のメカニズムについて、さらに詳しい考察が行われる。またこの論文では、ルソーに近い「自然の全体」という視点をもつ必要性が強調されていることも興味深い。カントは次のように語るのである。

 人間というものは、きわめて自己中心主義的な生き物であって、みずからが神の配慮の唯一の目的であるかのように考えがちなものである。そして神がその配慮において世界の統治の方策を定めるさいに、人間にしか留意しなかったと考えるものなのである。しかしわれわれは、自然の全体は神の叡智とその配慮の貴き対象であることを認識するものである。われわれは自然の一部にすぎないのに、その全体であることを欲しているのである[5]

 この論文の最後は、一人の君主が高貴な心情に動かされて、「あらゆる側面から困難な災害におびやかされている人々を、戦争の惨禍から救おう」[6]として立ち上がるならば、「神の慈悲深き手の働きの善き道具」[7]となるだろうと訴えている。これからドイツは七年戦争に巻き込まれ、ケーニスヒベルクはやがてロシア軍に占領されることになるのである。

『自然地理学』

 後年の『自然地理学』の講義では、「成熟に達した厚い地球の地殻の下に、空気が閉じ込められている多くの洞穴や通り穴が、必ず存在するにちがいない。この空気は、噴火山によってその出口を求め、力ずくで大量の物質をともなって吐きだす」[8]ことに、地震の原因を求めている。カントは、コーカサス山脈には、「いわば地面から湧きだしてきた山が発見されている」と指摘しながら、「われわれはおそろしい廃墟に住んでいるのである」[9]と語っている。それはまさにぼくたちの実感でもある

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「地震後、人間への強い信頼感を表現したカント」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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