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観念が情緒になるとき、それが共感である

共感する【3】――ヒュームの共感論

2011年7月21日(木)

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共感のはたす役割

 フッサールは現象学という方法から、人間が身体をもつことが感情移入と共感の可能性の条件であることを指摘したが、ヒュームもまた人間の身体と情念の構造の同一性において共感(Sympathy)が成立すると考える。ただしヒュームの場合には、この共感の概念はたんに他者を理解するのに役立つのではなく、審美観の根拠となり、正義の根拠となり、道徳の根拠となる。

 フッサールの場合には共感は、他者を理解するというごくミニマムな役割をはたすだけであるが、ヒュームの場合には美と正義と道徳の根拠を確立するというマキシマムな役割を期待されているのである。それでは共感はどのようにしてこのような偉大な役割を演じると考えられているのだろうか。

 ヒュームにとっては共感はごく自然に生まれるものである。それは二つの弦楽器の弦を調弦しておいて、片方の楽器を鳴らすと、残りの一つの楽器も鳴り始めるようなものである。この楽器の共鳴と同じように、「すべての情念は、一人の人物から他の人物へ即座に移って、すべての人間に対応した運動を生む」[1]という。そしてその運動が情緒のきわめて生き生きとした観念を相手のうちに作りだす。この観念はあまりに生き生きとしたものであるために、相手のうちで観念がすぐに情緒にかわる。観念が情緒になるとき、それが共感である。

 これが可能になるのは人間の身体と情念の構造が同じだからだ。「一切の人間のあいだには大きな類似が自然に保存されている。他人のうちに認められるいかなる情緒ないし原理にせよ、われわれ自身のうちに何らかの程度で同類をみいだすことができないようなものは、決してない。これは明らかである。この点は身体の仕組みも心の仕組みも同じである。部分の形態や大きさがどれほど異なっていても、構造や構成は概して同じである」[2]からだ。

 ぼくたちは他人の苦しみや喜びを目撃すると、調弦された弦楽器のように、同じ苦しみや喜びで鳴り始めるのだという。それは人間の同質性の原因であり、結果だということになるだろう。人間が同じ身体と精神の構造をそなえているからこそ、他者の情念に共感することができるのであり、他者の情念に共感することができるからこそ、社会が自然のうちに形成されるのである。

 ヒュームは社会契約論は虚構であり、そのような虚構なしで、社会は自然に共感のうちで形成されるはずだと考える。このヒュームの共感のメカニズムはきわめて受動的なものであることに注目しよう。共感する主体の側には何も求められない。弦が共鳴するように、ぼくたちの心は他者の感情に共感してしまうとされているのだ。

共感の生まれやすい条件

 しかし共感を生み出しやすい条件というものがある。第一は類似である。同じ国土を共有し、同じ言葉を共有する人々のあいだでは、異邦の人々とのあいだよりも、共感が生まれやすいはずである。「人性の一般的な類似に加えて、われわれの挙動や性格や、さらにまた国土や言語に特異な相似が強ければ強いほど、想像は容易に推移し」[3]やすいのである。

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「観念が情緒になるとき、それが共感である」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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