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久保利英明弁護士に聞く有事のコンプライアンスと原発事故の法的問題

  • 黒沢 正俊

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2011年8月3日(水)

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 久保利英明弁護士(日比谷パーク法律事務所代表)は、企業のガバナンス問題やコンプライアンス問題で警鐘を鳴らしてきたビジネス弁護士の大御所。その久保利氏が、福島第1原子力発電所の事故によって強制避難や農蓄産物に大きな損害を受けた生産者・流通業者側の代理人となった。

 なぜ企業を守る側のプロが東京電力相手の代理人になったのか。今回の原発事故について緊急出版した『想定外シナリオと危機管理――東電会見の失敗と教訓』(商事法務)についても話を聞いた。(聞き手は、黒沢正俊=出版局主任編集委員)

―― 福島第1原子力発電所の事故を受け、本を緊急出版されました。その理由は何ですか。

久保利:福島原発の事故について新聞・雑誌を丹念に調べた結果、恐ろしいことが2つ分かった。1つは原子力発電所というのは思っていた以上はるかに恐ろしいということ。もう1つは東京電力がまともな会社だと思っていたけど、全然まともじゃなかったということ。こんなにまともでない会社に、こんな危ないことはさせられないよ、というのが、本を書こうと思ったきっかけだ。

久保利 英明(くぼり・ひであき)
1944年埼玉県生まれ。1967年司法試験合格、68年東京大学法学部卒業。71年弁護士登録。2001年第二東京弁護士会会長、日弁連副会長。野村ホールディングス株式会社社外取締役。2002年金融庁顧問、金融問題タスクフォースメンバーに就任。2003年内閣府知的財産戦略本部員就任。2004年大宮法科大学院大学教授(現任)。2011年株式会社東京証券取引所グループ社外取締役(現任)。著書に『「交渉上手」は生き上手』『経営改革と法化の流れ』『株式会社の原点』『ビジネス弁護士ロースクール講義』ほか。現在、升永英俊弁護士らとともに違憲訴訟を通じた1票の格差是正の運動にも取り組んでいる。(写真:柚木裕司)

 4月に全国農業協同組合連合会(全農)や全国農業協同組合中央会(全中)、原発事故の被害を受けた農家の方から依頼を受け、紛争審査会の和解の仲介を含めた東京電力との交渉代理人に就任した。その後、依頼者がどんどん増え、セシウムが検出されたお茶の生産者と流通業者、セシウムが検出された牛肉の生産農家などからも依頼を受けた。

 本を書いた理由は、東電の企業法務がだらしがなかったからだ。まっとうな企業法務があったら、こんな事態にはならなかったと思う。ガバナンスとコンプライアンスの両方がまともでない会社が超優良企業と言われていた。企業法務のプロとしては、それが恐ろしいし、情けない。

―― 電力の地域独占が福島第1原子力発電所の事故の背景にあったと言われています。

 電力というのは経済の一番大事なインフラだ。電力王の松永安左エ門が今の電力の体制をつくって以来、地域独占の九電力体制は戦後ずっと続いてきた。立派な経営者もずいぶんいたと思うけれども、近年はトップの劣化がひどくなった。

 トップが次のトップを選ぶが、自分より大きな器量の人間は絶対選ばない。だから代が重なれば必ず劣化する。あらゆる組織がそうなっている。トップだけじゃなく、ヒラの怠慢もある。だから、トップの劣化とヒラの怠慢というのが今回の事故の背景にある。

伸びている会社はいざという時にトップが謝っている

―― 東電トップの情報開示、記者会見は失敗だったと断じています。

久保利:記者会見で東電は徹底的に失敗をしている。記者会見で追及されることを怖がって、逃げ回るのは最低だ。企業が存亡の危機に立たされた時、「僕らは全財産を投げ出してもいいから、やるべきことはやる」という覚悟があるかどうかだと思うが、東電にはそれが皆無だった。

 社長が入院しているのに、元気に現場で頑張っていますなどと嘘を言うことで、広報が信用されなくなった。事故後、東電のトップは何回記者会見をしたのか。数えるほどしかない。中部電力では水野明久社長が一人で出てきて浜岡原発を停止するという記者会見をやった。少なくとも、水野社長は代表訴訟のことなどをおくびにも出さなかった。

 東電のトップは株主代表訴訟を怖れて、余計なことは言わないという考えなのかもしれないが、代表訴訟は負ければ役員が破産するだけの話だから小さな話だ。役員1人1人にとっては大きな話かもしれないけれど、津波で家屋を流され、原発事故の被害を被った被災者のことを思ったらどうでもいい話なんだ。

 トヨタ自動車の奥田碩さんが社長だったらどう動いたか、ソニーの盛田昭夫さんが社長だったらどうだっただろうと考えると、たぶん「会見は俺がやるよ、俺が謝る」と、まず第一声がそうだったと思う。

 偉い社長がいなくなった時、社長に「まず出ていって謝ってほしい」と言える人が周囲にいない。みんな記者会見には行きたくないから。「とにかく70歳までは何とか無傷でいたい」と思っているトップもいる。結局、「我々が何とかうまくやっていきますから」と部下が引き取ってしまう。これがまさにトップの劣化なんだ。

 信越化学工業で何か起きたら、金川千尋会長が「自分がやる」と言うはずだ。ユニクロだと、柳井正社長しかいない。伸びている会社と伸びてない会社でトップの対応が違ってくる。トップの力があって伸びている会社は、いざという時にトップが堂々と記者会見して謝る。ソフトバンクの孫正義社長だって、何か失敗があると、いつも自分で謝っている。

 立派なトップたるメンタリティを持たない人がトップに座る会社は、業績が伸びていない会社で、官僚化している。官僚制度によってトップが劣化している。記者会見にはトップがなるべく出ない、IRもやらないようになっていく。そんな会社が危機に直面すると、会見は惨めなものになる。トップは何一つ知っているわけではないのだけれども、トップが言うのと言わないのとでは大違いだ。

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