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道徳性の基礎となる「想像の能力」

共感する【5】――アダム・スミスの共感論

2011年8月4日(木)

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共感の発生メカニズム

 すでにみてきたように、ヒュームの道徳の理論は、効用と快感の共感に基づくものだった。道徳的な行動をみると共感が生まれて、自愛の情念が抑えられる。誰もが他者の立場にたつことによって、他者の快感を共感できるからだというのがヒュームの考え方だった。それは感情の伝達によって道徳を説明するものであり、ヒュームの苦心はそこから精神の要素を排除することにあった。

 スミスはこのように精神の要素を否定する必要がなかったために、もっと素直で複雑な共感の理論を構築することができた。スミスの共感においては、弦楽器が共鳴するような物理的なものではなく、理性による状況と原因の理解が重要な役割をはたしている。スミスは他者の苦悩に共感することができるためには、他者の置かれている状況と苦悩の原因が理解できなければならないと考える。

 ヒュームは他者の苦悩の表情をみると、これに共鳴するように、見ている者のうちにも苦悩の感情が生まれると考える。しかしスミスは苦悩の表情を目撃するだけでは決して共感の原理は働かず、見ている者のうちに苦悩が生まれることはないと考える。「他人の悲嘆や歓喜にたいするわれわれの同感(シンパシー)でさえも、われわれがそのいずれかの原因について知らされるまではつねにきわめて不完全である」[1]

 街路でみかけた知人が悲痛な顔をしていたとしよう。そのときぼくたちはすぐに悲痛を感じるだろうか。それよりも「どうしたのですか」と尋ねるのではないだろうか。スミスは「受難者の苦悩以外のなにものも表現しない一般的な嘆き」は共感を作りだすよりも、「かれに同感しようといういくらかの気持ちとともに、むしろ彼の境遇を調べようとする好奇心を作りだす」[2]と指摘する。

 ここでは情念はそのまま伝達されず、その悲痛の原因を調べようとする精神の働きを媒介して初めて伝えられる。友人が「父がなくなったのです」と答えたならば、深い追悼の意を表明するとともに、その心の痛みをぼくたちも自分のうちに感じるだろう。「同感はその情念を考慮してよりも、その情念をかきたてる境遇を考慮して起こる」[3]のである。

情念なしの共感

 ヒュームの情念の共鳴の理論を批判するかのように、ときには情念を媒介とせずに共感が発生することがあることをスミスは指摘する。幼児が病気で熱を出しているのを看病している母親のことを考えてみよう。幼児は眠っていて苦痛の情念を示していないかもしれない。わずかな不快を感じているかもしれないが、その不快は大きなものではないだろう。しかし母親は幼児の状況を医者に知らされて明確に理解しているだろう。

 そのとき母親が幼児の苦しみを理解し、想像し、子供が孤立無援な状態にあることを認識する。そして幼児の病がそれからどうなるかを想像し、苦悩を感じるだろう。「これらのすべてから、悲哀と困苦のもっとも完全な像を作り出して、母親自身の悲哀を生む」[4]のである。子供が治癒せず、死ぬことまで考えるだろう。しかし幼児はそのようなことを考えたこともないだろうから、死の恐怖に襲われることはないだろう。

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「道徳性の基礎となる「想像の能力」」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官