• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

なるべく早く芸能界に復帰してください

2011年8月26日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 島田紳助さんが芸能界を引退するのだそうだ。
 で、どの局も彼を「紳助さん」と呼んでいる。横並びだ。全局一斉のさん付け処理の同時スタート。不思議な光景だ。

 暴力事件の折、島田容疑者に対して用いられた「島田紳助司会者」という呼称を思い出す。あの時もほぼ全局横並びだった。
 「容疑者」と呼びたくない。といって、呼び捨てにもできない。だから「司会者」。苦肉の肩書きを付加して呼びかけるわたくしたち。実に不可思議な処理だった。

 それが、謹慎期間が明けてテレビの第一線に復帰すると、紳助は再び紳助に戻る。元の呼び捨て名称の紳助。芸人の紳助。タレントの紳助。みんなの紳助、だ。

「島田紳助の行列のできる法律相談所」

 冠番組にも敬称は付かない。なぜなら、番組名に冠される冠としての「島田紳助」は、人名であることを超えた一種の商標のようなもので、広く国民に共有された文化的な表象だからだ。でなくても、わが国の社会には「芸能人は、呼び捨てにして差し支えない」という不文律がある。彼らは、その芸能の享受者であるところの一般大衆にとって、敬語の介在を必要としない、ごく近しい距離感の人間だからだ。それゆえ、公的な存在にのぼりつめた人間は、敬称を伴わない。むしろ呼び捨てにされることが一流芸能人の証になる。

 ところが、この度の引退会見を受けて、島田紳助は、「紳助さん」になった。「司会者」名称は使えない。というのも、みんなの紳助はもう司会者じゃないから。

 といって、誰も「島田紳助」と、呼び捨てにすることはしない。できっこない。
 今回のさん付けの理由は、おそらく、「一般人になったから」という解釈から来ている。

 一般人について言及する時には、名前の後ろに敬称をつける。これは、うちの国のメディアが、長年遵守しているところの慣習法だ。だから、引退した紳助は紳助さん。そこまではわかる。

 同じ理由で、「紳助さん引退」という見出しも了解できる。この扱いに私は違和感を感じない。
 でも、「紳助さん黒い交際」とか「紳助さん山口組No.4と同席写真」はいかにもおかしい。

 どうしてここの紳助に「さん」が付いているんだ?
 この設定だと、なんだか「紳助さん」が、一連の出来事の被害者であるように見える。まったく悪意がないのに無理解な世間によって不当に糾弾されているかわいそうな人であるみたいに。でなくても、記事を伝える側の人間が、「紳助さん」に気を使っている印象を受ける。

 無論、デスクとしても、刑事被告人として起訴されているわけでもない一般人を、いきなり呼び捨てで表記する判断には、なかなか踏み切れないのだとは思う。

 でも、だとしたら、「芸名」で呼びかけることもやめるべきだ。長谷川公彦さん、と、本名でそういうふうに表記するのなら、それはそれでスジは通る。が、彼らはそうしない。彼らは、既に芸能人でなくなった元司会者を芸名で呼ぶ一方で、敬称の表記基準については一般人のそれを適用している。と、やはり記事を読む側は、どうしたって奇妙な印象を抱かざるを得ない。当然だ。

 テレビはもっとひどい。
 引退の事実を報じた後、どの局もこれまでの島田紳助の経歴を紹介する流れに入るわけだが、この経歴紹介のVTRが本当に目を疑うツクリになっている。

 男紳助の栄光の物語。時代を駆け抜けた天才・紳助に捧げる惜別のコメント集。稀代の天才芸人。最高峰の話術。プロデュースの達人。視聴率王。義理人情の男。若手に慕われる関西のロールモデル。見た目以上に繊細な素顔の紳助さん。実業家としての非凡な手腕を備えた切れ者の横顔。石垣島の救世主。鈴鹿のカリスマ。不良少年の憧れ。更生と成長の物語。涙。絆と友情。ああ。私は何の放送を見ているのだろうか。とてもじゃないが、不祥事を理由に芸能界を追われる人間を扱った報道には見えない。潔い去り際とか、カッコイイ最後とか、男の美学だとか、そういうお話ばかり聞かされていると、まるで、引退を宣言したその男の後ろ姿が、万雷の拍手の中花道を去っていく千両役者の背中であるみたいに思えてくる。

コメント155

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

一覧

「なるべく早く芸能界に復帰してください」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

企業や官公庁の幹部のメールボックスの内容が、まるごと数十万〜数百万円で売られている事例もある。

名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官