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政治家の演説口調が行き着く果て

2011年9月2日(金)

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「前に話したかもしれないけどさ」
 という前置きの後に続く話には、実際、前にどこかで聞いた感じがつきまとっている。
 とはいえ、聞いているこっちに確たる記憶があるわけでもない。だから、
「そうか? はじめて聞くぞ」
 と言ってやる。

 と、相手は安心して続きを話し始めるわけなのだが、果たして、しばらく耳を傾けているうちに、以前聞いた話であることがはっきりしてくる。うん。前に聞いた。確かだ。二度目どころか三度目かもしれない。というよりも、オレが「はじめて聞くぞ」と言ってやってからこいつがこの話を繰り返す展開自体、前回とまるで同じだ。

 かように、ある程度以上年齢の行った人間同士の会話には、常に同話反復のリスクが織り込まれている。われわれは、互いに、以前聞いた話である旨を指摘しないことで、双方の体面を防衛していたりする。

「前に話したかもしれないけどさ」
 という、この前置きは、おそらく、話し手が、以前、どこかで、同じ話を繰り返している旨を指摘されて(←たぶん何度も)、心に傷を負ったことを示している。とすれば、この形式上の問い掛けに対して
「うん、その話は三回目だ」
 という指摘をもって報いるのは、人の道に反した態度だと申し上げねばならない。聞き手は、特に急いでいるのでない限り
「オレははじめて聞く」
 と、よろしく寛大に応じるべきだ。ともだちの話を二回か三回余分に聞いたからといって、人生の時間が無駄になるわけではない。おそらくそれは、人生の恵みだ。

 原稿を書く仕事にも、二度ネタの危険は常に潜在している。齢四十を過ぎた書き手は、この点に十分な注意を払わなければならない。

 最近は全文検索ツール(「Googleデスクトップ検索」とか)という便利なものがある。私自身、原稿を書いていて「ん?」と思った折には、前に似たような原稿を書いたことがないかどうかを、その都度チェックすることにしている。
 手順は簡単。いくつか心当たりの単語をタイプして、検索ボタンをクリックするだけだ。

 と、ほとんどの場合、これから書こうとしていたのと同じ筋立ての原稿が画面表示されてくる。がっかりだ。オレはまったく同じ話を三年前に書いている。なんということだ。
 今回書くつもりでいたエピソードも、実は、たった今、去年の6月に当コーナーで紹介していたことが判明した。で、いきなり出鼻をくじかれたので、悔しさのあまり「二度ネタ」をネタに急場をしのいでいる次第だ。

 今週は野田佳彦氏について書く。
 といっても、氏の政見や人となりについて独自の情報を持っているわけでもないので、先日の代表選での演説について触れるつもりでいて、それで、さしあたって、人の「声」について、私が体験したエピソードを紹介するところから話を切り出す所存だったのだが、そのエピソードが既に使用済みであったことが判明した――と、現在、私はここのところにいる。困っている。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「政治家の演説口調が行き着く果て」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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