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「行動しない理由」を吹き飛ばす、突風のような言葉が欲しいか?

「フォイエルバッハにかんするテーゼ」カール・マルクス著

2011年9月7日(水)

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トマツタカヒロ、格闘家にしてアーチスト

トマツタカヒロ。彼は格闘家、そして、アーチストだ。
ぼくは先日、二夜続けて行われた彼のパフォーマンスを観た。

空手衣に身を包んだトマツタカヒロは、本の朗読と格闘技のトレーニングを同時に行った。
本を朗読し、サンドバッグを突き、蹴る。
あるいは組手(スパーリング)に朗読の声を重ねて見せる。
パフォーマーの心と体のきしみが伝わって、観ている者の息が詰まる。それほど激しい表現だった。

しかし、誰が予想していただろう、あんなことが起こるなんて。

第二夜。トマツタカヒロは左手に本を持ち、強い調子で朗読を続けながら、空手の試割りのように、足元に設置したブロックに右の拳を叩きつけた。しかし集中しきれなかったのか、バランスを崩したのか、ブロックは割れない。 このとき彼が右手をひどく傷めてしまったことは、誰の目にも明らかだった(後で聞いた話では、三か所、骨折していたという)。

それでもトマツタカヒロは、うめきもしなければ表情を歪めることもしないでパフォーマンスを続行した。
しかし、激しい痛みに襲われていることはまちがいない。貧血を起こしているのかもしれない。いくら平静に朗読しようと努めても、呼吸の荒さは隠しようもない。
姿勢を保つ。声を出す。幼児にだってできるたったそれだけのことに、鍛え上げた肉体を持つこの男は、今、全力を振り絞っているように見える。
ぼくたちは、身じろぎもせず、息をひそめて、彼の動作を見つめた。
苦痛に耐えて読み上げられる本の、その一語一語が、一瞬おそろしく鮮やかに輪郭を浮き立たせては、たちまち会場の薄闇に消えていく。 まったく、何という状況だったろう!

やがて終わりが来る。
異様な気迫と緊張感を漲らせたまま、彼は、ついに最後まで演じきった。
短い挨拶。
そして、ただちに病院へ向かうと、その日、彼はもう二度と観客の前に戻ることはできなかった。

本は楽譜、読書は演奏

パフォーマンスが示すものは常に多義的であり、どう受け取るかは人それぞれだ。
しかし、トマツタカヒロが自らの拳を打ち砕きながら朗読を続けた、あの凄まじい場面では、もしかしたら、その場にいた全員が同じことを考えていたかもしれない、と思う。すなわち、「ある時、ある場所、ある状況で行われる、ただ一回だけの読書」のことを。

あるとき、ある場所で、ひとつの状況を生きているさなかに、人は一冊の本を手に取る。
どう読むか。何を感じ取るか。
それは、本の内容だけでなく、本を読む人が置かれた状況とも切り離すことができない。

その状況で読んだために、目に入らない言葉がある。
逆に、その状況で読んだからこそ、理解できる言葉もある。
読書は、状況と一体の営みだ。

本は楽譜、読書は演奏のようなものだろうか。
聴衆は、楽譜ではなく、そのときその場かぎりの演奏に感動するもの。
読者もまた、そのときその場かぎりの一回だけの読書に感動し、それから何かを得るのである。

状況に埋め込まれた、ただ一回だけの読書

ぼくたちひとりひとりの、このかけがえのない人生の、ただ一回しかない状況にあって、自分の必要や意識の方向に応じて、あるいは偶然によって、本はそのとき限りの顔を見せる。
いわば「読書は状況に埋め込まれている」。

それは、この連載の大前提でもある。
「ある時、ある状況においては、この本はこのように読めた」という極めて私的な書き方、いわば「私書評」とでも呼ぶべき書き方をしてきたが、それは、ただ一回だけの読書を、それがなされた状況のなかに置いて、語りたかったからである。

「フォイエルバッハにかんするテーゼ」

十代の中頃に読んだ「フォイエルバッハにかんするテーゼ」、とくにその第11テーゼを取り上げたい。

「フォイエルバッハにかんするテーゼ」とは、ドイツ出身の革命家カール・マルクス(1818-1883)が書きとめた、哲学者フォイエルバッハについてのメモである(「テーゼ」とは、哲学的な見解や政治的な方針を簡潔にまとめた文章のこと。「フォイエルバッハにかんするテーゼ」は計11編のテーゼ集だ)。

「フォイエルバッハにかんするテーゼ」のなかで、いちばん有名なのが第11テーゼだ。

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