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「同情でないような愛はすべて我欲である」

共感する【10】――ショーペンハウアーの同情論

2011年9月15日(木)

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スピノザ的な善の定義

 これまで考察してきたように、カントは同情する人は善き人であると考えていた。しかしこの人は心情が善いだけであって、道徳的に善い人ではなかったのだった。カントの強い影響をうけながら、カントを論駁することに哲学の情熱の半ばを費やしていたショーペンハウアーは、カントとのこの同情論にも正面から反論する。

 ショーペンハウアーは「善さ」というものを二つの観点から定義する。第一は相対的な善さと絶対的な善さという観点からである。相対的な善さとは「…のために善い」というものであり、有用性の観点から眺めたものである。ショーペンハウアーはこの世界はあらゆるものが意志の現れであると考える。意志はカントの物自体に相当するものであり、すべてのものはこの意志が姿を変えたものである。 それが人間には表象として現れるのだ。

 この意志という概念は、欲望と言い換えてもよい。すべてのものは自己保存の欲望と、種の維持の欲望によって動かされている。スピノザのコナトゥスに近いこの意志は、存在の欲望であり、自己保存の欲望である。植物も動物も、すべてのものは自己を保存し、種を保存しようとしているのだから、その意味では世界の本質が欲望に、すなわち意志にあるというのもそれほど間違いではない。

 スピノザにとっても善とは「それがわれわれに有益であることをはっきりと認識するもの」[1]のことであった。「善および悪の認識は、われわれに意識されたかぎりにおける喜びあるいは悲しみの感情」[2]だった。人間は、自分がより完全になると感じると喜びを感じるのであり、その喜びをもたらしてくれるものが善である。

 ショーペンハウアーも同じように定義する。人間の身体への作用において、「意志に逆らう場合は苦痛と呼ばれ、意志に応じる場合は快感、快楽と呼ばれる」[3]。スピノザ的なこの定義にもとづいて、善悪も定義される。「意志にその何らかの現れにおいて適合し、目的を成就するものはすべて」[4]善いと呼ばれるのである。

 この定義によれば、善さとは「何かのためのものということであるから、どのような善さも本質的に相対的である。というのは、善さがその本質をもつのは、それを切望する意志とのかかわり合いだけにおいてだからである」[5]ことになる。これが相対的な善である。善は身体に快楽を与えるもの、主体の欲望を満たしてくれるものである。

 しかしここからスピノザとの違いが明確になる。この世界はすべて欲望する主体で充満しているのであり、主体が欲望を激しくもち、激しく望むほどに、その苦痛も大きくなる。欲望はすべて欠如から生まれる。欠如をみたしたときに、その欲望は収まり、満足がえられる。しかしこの満足は短く、しかも退屈をもたらすものでしかない。また新たな欠如が感じられ、新たな欲望が起こる。

 「あらゆる努力は欠乏から、おのれの置かれた状態にたいする不満から発生する。それが満たされないかぎりは苦しみとなるからである。とはいえ、どんな満足でも永続はせず、むしろたえず新しい努力の出発点となるにずきない」[6]のである。だとすると、「これらの現象は絶え間ない苦しみのただなかにあり、永続する幸福をもたない」[7]のは明らかだろう。「あらゆる生は苦しみ」[8]なのである。

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「「同情でないような愛はすべて我欲である」」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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