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玄関に鍵をかけない国のセキュリティー

2011年10月28日(金)

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 最初に告知です。
 この連載をまとめた単行本が出ます。
地雷を踏む勇気』(技術評論社、1554円)です。書店の店頭に並ぶのは11月の1日頃、amazonでは既に予約を受け付けています。
 なお、11月17日には、同じく当連載から別の原稿をピックアップした単行本が発刊されます。『その「正義」があぶない。』(日経BP社、1575円)です。こちらもamazonにて予約受け付け中です。よろしくお願いします。

***

 この夏以降、政府機関や軍需産業に対して仕掛けられたサイバー攻撃が次々と発覚している。

 報道によれば、被害は国家の中枢に及んでいる。衆議院議員の一人が、7月末、届いたメールの添付ファイルを開いたことで「トロイの木馬」と呼ばれるタイプのウイルスに感染して、以来、衆議院のネットワークは中国内のサーバーからパスワードなどが盗み出せる状態になっていたのだそうだ。盗まれた可能性のあるIDとパスワードは、衆院議員約480人および各公設秘書1人の計約960人分と、衆院事務局の職員約1700人を合わせた計約2660人分。大変な数だ。

 どこまでが確かな情報なのかはわからない。
 というよりも、現在判明しているのは、衆議院のサーバーが、ある時期から外部の侵入者によって「情報盗難可能な状態に陥っていた」ということで、本当のところ、パスワードが盗まれたのかどうかは誰にもわからないのだ。
 ということは無事なんだろうか。

 いや、何が盗まれたのかもわからないし、盗まれたかもしれない何か(たとえば議員のパスワード)を通じてどんな犯罪が行われたのかも、まるでわかっていないということだ。

 デジタルの犯罪は、原理的には発覚しない。
 たとえば、八百屋の店頭に置いてあるメロンを誰かが盗めば、メロンは消失する。
「おい、ここにあったメロン、お前が売ったのか?」
 店主はアルバイトに尋ねる。アルバイト君は
「いえ。おやじさんじゃなかったんですか?」
 と答える。この段階で、メロン盗難事件はほぼ確定する。物理的な実体を備えたものが、置いてあった場所から消えている以上、誰かが持ち去ったとしか考えようがないからだ。

 ところが、磁気記録された機密情報ファイルやパスワードのようなデジタルのデータは、侵入者が盗んでも元本が消滅しない。当然だ。犯人は情報を「コピー」したに過ぎず、複写された側には、被害の痕跡が残らないからだ。八百屋の店頭の事例になぞらえて言うなら、デジタルの盗難は、メロンの写真を撮ることに相当する。これだと店のオヤジは被害に気付くことができない。なぜなら、メロンは自分が盗撮されたことに気づくこともなく無邪気な顔で棚の上に鎮座しているからだ。

「つまり実害はゼロだってこと?」
 違う。無限大だ。

 写真に撮ったメロンは、食べることができない。
 が、デジタルデータの場合、コピーした子データは、親データである原本とまったく同等に利用することができる。ということは写真のメロンは食べられるのである。のみならず、デジタルのメロンは無限に複製が可能で、どれだけ子や孫を作っても劣化しない。とすれば、誰が有料のメロンを買うだろう。

 かように、サイバー攻撃は、非常に評価のむずかしいタームだ。
1.最も深刻な被害は、被害者が被害に気づいていないケースであり、最高度に優秀な侵入者は侵入の痕跡を残さない。であるから、デジタル犯罪による真の被害は、永遠に発覚しない。
2.その意味で、衆議院が侵入の痕跡を発見したのは、むしろ朗報だったと考えることもできる。
3.もっとも、国家機関のサーバーに侵入するスキルを持った人間なら、痕跡を消すことも可能だったはずで、ということはつまり、敵はあえて足跡を残したと考えるべきであるのかもしれない。とすると、彼らの狙いはIDやパスワードの盗み出しではなかったということになる。そんなものはもう何年も前に窃取済みで、果実はすっかり絞りつくしたぜ、と。
4.つまり、侵入者の狙いは、自らの存在を誇示し、われわれを混乱させるところにあった、と、そう考えれば説明がつく。
5.ん? もしかして、犯人はセキュリティ業界の人間で、彼らは、お国を相手にデジタル情報防衛利権を構築するための下地作りをしているのか?
6.諸君、もっとシンプルに考えようじゃないか。ウイルスの侵入経路が中国のサーバー経由であった点を考慮すれば、犯人は当然、中国の不逞分子ということになる。この結論のどこが不満なんだ?
7.しかし所長、中国とわが国の離反を促すことで利益を得るのが誰であるのかを考量すれば、事態を単純に評価するのはむしろ危険であると考えます
8.ヤマナカくん。今回のセキュリティー強化プロジェクトにはわが省の未来がかかっている。めったなことを口外してもらっては困る。わかるね。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「玄関に鍵をかけない国のセキュリティー」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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