「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

TPPと野田総理の態度のわかりにくさ

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2011年11月11日(金)

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 今回はTPP(環太平洋経済連携協定)への交渉参加問題に触れざるを得ない雲行きだ。
 私の考えは、いまだに定まっていない。
 その一方で、〆切は、既に目前にある。

 かように、私自身の状況(考えがあやふやなのに〆切が来ている状況)は、野田総理が直面している事態(党の議論が紛糾する中で訪米前に態度を決定せねばならない事態)と、なんだかとても良く似ている。

 今回は、迷っている時の結論の出し方について考えてみることにする。
 悪くすると、結論を提示できなかった場合のフォローの仕方について、ということになるかもしれない。

 自分ながら確たる結論を持っていないにもかかわらず原稿を書かねばならないケースは、私のようなタイプの書き手にとって、珍しい出来事ではない。日常茶飯事と言っても良い。
 〆切は毎週やってくる。が、私の頭脳は、週に一個ずつ結論を提示できるだけの生産性を備えていない。
 結果、当欄のテキストは、毎回、行きつ戻りつを繰り返しながら、旗幟鮮明な言説を打ち出せぬまま、狸の落ち葉みたいな読後感を提供するにとどまっている。

 それでも、ウェブ上の原稿が優柔不断だからといって、国民生活に壊滅的な被害が及ぶわけではない。
 コラムニストは、結論発行業者ではない。むしろ、迷妄と雑念を業とする者だ。であるからして、結論にたどりつけなかった経緯を率直に書いて、それが芸風として成立しているのなら、とりあえずはOKということになる。甘い稼業だ。

 政治家の場合、そうは行かない。
 二枚目の俳優なら、迷っている横顔に味があるぐらいな解釈も可能だろうし、思い惑うパティシエや思案に暮れるバーテンダーなんかも、それはそれで魅力的かもしれない。でも、職業的な政治家にとって、遅疑逡巡は致命的な失策だ。なんとなれば、彼らのなりわいは、決断を代行するところにあるからだ。

 その意味で、政治家はサッカー選手に似ている。
 ペナルティエリアにおいて、不決断は誤った決断よりも悪い。
 パスとシュートのいずれが正しいのかは、神のみぞ知るところで、つまり、誰にもわからない。
 が、最悪の決断だけは常にはっきりしている。それは、決断しないこと、すなわち、パスを出すべきなのかシュートを撃つべきなのか迷っているうちに囲まれてボールを奪われる事態だ。枠を外したシュートであれ、届かないパスであれ、逡巡の結果としての無意味なボール保持よりは数段マシなのだ。

 ゆえに、野田総理は決断せねばならない。
 たいへんな重責だ。
 先日来、首相は、「国益」という言葉を繰り返している。

 11月9日の日経新聞は、次のように伝えている。
《首相は記者団に「交渉に参加するということは、しっかりと国益を実現するために自分たちがイニシアチブをとりながら、対応することだ」とTPP交渉参加に意欲を示した。交渉参加後の途中離脱については「離脱うんぬんではなく国益を実現するために全力を尽くす」と否定的だった。》

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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