「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

イタリアと大阪の実に困った相似

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2011年11月18日(金)

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 大阪市長選が告示された11月13日の午後、私は大阪駅に降り立っていた。

 大阪に特段の用事があったのではない。途中下車だ。その日の夕方、神戸を訪れる予定があって、往路の新幹線で駅弁を食べる姿が、なんだかわびしく思えたので、大阪で遅い昼食をとるプランを採用したのである。

 大阪に立ち寄るのは、おそらく20年ぶりぐらいだ。
 御堂筋の中心街を自分の足で歩く経験ということになると、さらに久しぶりだ。もしかして、大阪に赴任した新入社員の頃以来かもしれない。ということは、約32年ぶりということになる。その前は万博。41年前。タイム・スリップだ。

 大阪は、すっかり様変わりしていた。薄汚れた印象のあったJRの大阪駅も見違えるようにきれいになって、駅前からの眺望は、一から十まで私の記憶と違っている。別世界に来たみたいだ。

 その日は、2時間ほどかけて、主に梅田の近辺を歩きまわった。
 曽根崎あたりで道に迷いながら、私は、神戸での用事が済んだら、もう一度戻って来ようと心に決めていた。大阪の街の様子がこんなに変わってしまっている以上、アタマの中の大阪像をアップデートしないといけない。でないと、私は判断を誤ることになる。

 翌日は、昼過ぎに大阪に戻ってきた。
 神戸の住吉というところから乗った電車が、「大阪北詰」駅に着いたところで、異変に気づいた。

「あれ? この電車、新大阪には行かないんじゃないかなあ」

 と、私は、同行していた編集者のA藤氏に言った。

「そうですか?」
 彼はよくわかっていない。

「大阪城はたしか市役所のすぐそばだったはずだから、大阪駅とは全然別方向です」

 と、私は大阪の地理について講釈を垂れたのだが、この説明は、後で確認したところ、かなり盛大に間違っていた。乗っている電車が新大阪に向かっていなかったことは言った通りだったが、大阪城は市役所の近所ではなかった。それに、市役所と大阪城が隣接しているのであれば、その北側は大阪駅にほど近いはずで、つまり、私は、市役所の場所も、大阪城との位置関係も、まるでわかっていなかったのである。

 結局、われわれは、「北新地」という駅まで戻って、そこで電車を降りた。
「北新地は梅田に近いはずです」
「そういえばそんな歌がありましたね」

 今度の断言は、そんなに間違っていなかった。というよりも、前の日に北新地あたりをさまよっていた私には、ある程度新鮮な土地勘があったわけで、近いも何も、新地は、ほぼ梅田そのものだった。

 A藤氏とは北新地で別れた。粋な別れの名所なのだそうだ。なるほど。
 で、一人、30年ぶりの大阪を探訪した。曽根崎、堂島から大江橋あたりの地上と地下を昇ったり降りたりして、それからたっぷり夕方まで、中之島、淀屋橋を経て、あとはひたすらに御堂筋を南に向かって下った。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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