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生意気な「談志」と二人の友だち

2011年11月25日(金)

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 立川談志さんが亡くなった。

 「談志」とシンプルに表記したものか、「談志師匠」と呼びかけるべきなのか迷ったあげくに、とりあえず「立川談志さん」と書いてみたのだが、やっぱり変だ。落語家の名前をどう扱うべきなのかについては、以前、五代目円楽逝去の際に掲載した原稿の中で書いている。ご興味のある向きは参照してみてほしい。結論は、どう呼んでも落ち着かないということだ。

 落ち着かない理由のひとつは、私自身が、落語に対して構えてしまっているからでもある。落語については、考えるのでも語るのでも、まず自縄自縛に陥る。困った傾向だ。

 以下、当稿では、単に「談志」と表記することにする。師匠が生きていた間、私は、ずっと「談志」という呼び方で先方の顔を思い浮かべていた。死んだからといって、急に改めるのは変だ。だから、「談志」と呼ぶ。半可通っぽく聞こえるかもしれないが、そこは大目に見ていただきたい。現実に私は半可通なわけで、その半可通がいまさらへりくだるのもかえってイヤミではないか。

 自分でそう言っておいてすぐに混ぜっ返すみたいでこれもまた奇妙な言いようなのだが、正確なところを申し上げるに、私は、半可通ですらない。それ以前だ。なにより、ナマの談志を見たことがない。録音と録画と電波経由で磁気化された高座を聞きかじっていただけだ。

 ということになると、一番ふさわしい言い方は、「ファン」ぐらいだ。小学生の時以来のファン。それが一番ふさわしい。私は談志を追いかけ回していた。猿の子が枝の先にある月に手を伸ばすみたいに。その純情に免じて、どうか呼び捨てを許してやってほしい。談志は談志。ほかにどう呼んでも落ち着かない。こっちがほんの寝小便垂れだった時分から、そう呼んでいたわけだからして。

 ここでは、立川談志の芸や、彼の芸能史的な位置づけについてあれこれ見解を並べ立てるつもりはない。私の側からの個人的な関わりを語るにとどめる。ファンは、相手がどんな偉大な存在であっても、最終的に、スターを、自分と同じサイズの人間として受け止める。必ずそうなるのだ。私も、立川談志という巨大で多面的な存在のうちの、ほんの一部分を、個人向けに矮小化(モバイル化かもしれない)したカタチで対峙していたわけで、結局のところ、「私の談志」は、稀代の天才であるよりも、私に似た人だったのである。

 誤解してはいけない。オダジマが談志に匹敵する人間だと言っているのではない。
 ファンがスターと関係を取り結ぶ時、そのスターの中の、自分の持っていない部分に憧れる場合と、自分とよく似た一面に惹かれているケースがあって、私にとっての談志は、後者だったということだ。

 無論、私がそう考えていた類似点自体、多分に思い込みを含んでいる。私は、自分の中にある厄介な部分を、談志という天才に仮託することで、安心立命を得ていただけなのかもしれない。だとしても、そういう部分も含めて、私は談志に似ていたはずなのだ。似ようと思ってここまでやってきたのでもあるし。

 ともあれ、談志は、私がものごころついて最初に憧れた人物だ。長嶋茂雄よりもジャイアント馬場よりも、私にとって子供の時代のスターは、他の誰でもない、一も二も無く立川談志だった。談志とウルトラマン。強いて並べるならこの二人だ。いずれも、不世出の存在だ。世に在るにしても、3分が限度。それほど強烈な存在だった。

 発見するに至った経緯には父親の影響があずかっている。
 もう亡くなってしまったが、私の父は落語が大好きで、テレビで落語の放送があると必ずチャンネルを合わせていた。

 昭和の庶民にとって、テレビは魔法みたいな機械だった。落語と洋画劇場とプロ野球のナイター――結局、父が生涯を通じて愛着を傾けたものは、ほとんどすべてブラウン管の中にあった。

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「生意気な「談志」と二人の友だち」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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