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イロニーをあらわにするソクラテスの対話

笑う[2]

2012年1月19日(木)

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ギリシア喜劇の手法

 それではギリシア喜劇は具体的にはどのような手法で観客の笑いをとろうとするのだろうか。第一がすでに指摘した時事性であり、風刺性である。誰もが知っているアテナイの指導者クレオンを批判する際には、その生まれや育ちについてのくすぐり、貪欲さなどの悪癖、身体的な特徴などが徹底的に嘲笑される。観客には馴染みの人物についてのほめかしだから、すぐに分かるようになっている。たとえばクレオンのことを「食いしん坊で見境なしに飛びつく鯨さ。そうおれには思われた。そいつは火傷をした豚のような声をしているのさ」[1]と評するときなどである。

 次によく好まれたのはスカトロジーである。『蛙』の冒頭でアリストファネスは、最近の喜劇であまりに使われるので使うべきではない例として、ワインの神のディオニュソスは、「天秤棒をかつきながら〈うんこがしたい〉はいかん」[2]という例をあげている。そして「こんな重い荷をかついでいながら誰か助けてくなきゃ、一発放つぜ」[3]もいけないという。

 それでいて、プルトンの門を叩いて、門番に脅かされると、当のディオニュソスは怯えて脱糞してしまう。そして同伴者に心臓に海綿を当ててくれと頼んで、海綿を渡されると、尻の穴に当てたものだから、同伴者から「わあ、黄金色の神さま、あなたの心臓はそこにあるのですか」[4]と言われてしまう。言った端からスカトロジーに走っているのである。

 食事、性的な行為、脱糞や放屁など、人間の下半身にまつわる行為を笑うのは、人のつねらしい。たんにそうした行為をだせば笑ってもらえるというだけでなく、そこで掛け言葉が多用される。そこにもっと深い笑いの工夫があるだろう。だから第三の要素として、駄洒落、地口、掛け言葉の多用が挙げられるだろう。

 たとえば『アカルナイの人々』はさまざまな人が市場に売買にやってくる。そこに飢え死に寸前のメガラ人が、二人の幼い娘を袋にいれておいて、豚と称して、娘を売ろうとする。買い手は娘であることに気づいてびっくりするが、売り手は娘に「コイ、コイ」と豚の鳴き声をさせる。すると買い手は、「どうやら小豚らしくなった。したが五年も育てれば、立派な女陰と相成ろう」[5]と答える。ギリシアでは豚を意味するコイロスという言葉には、ヴァギナの意味もあったからである。

 このほかに、滑稽な身振りや服装や話し方など、実際に演じられてみないと現代では分からない笑いのとりかたもたくさんあったことは間違いないだろう。こうした滑稽はその後も長い伝統を作りだすことになる。ギリシアの喜劇は、観客から笑いをとって優勝できるかどうかが重要な意味をもっていたので、とくにこれまで挙げたような要素が重視される傾向がある。後の喜劇では、人物の取り違えなど、さらに複雑な笑いの手法を導入して、笑いの質を高めてゆくことになるだろう。

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「イロニーをあらわにするソクラテスの対話」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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