「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

占い師による「決断代行」のゆくえ

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2012年2月24日(金)

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 女性漫才タレントの片割れが占い師の支配下にあるのだそうだ。
 いまさら名前を伏せる意味もないので、はっきり書くことにしよう。話題の主は、女性漫才グループ「オセロ」の中島知子さん(40)だ。以下、敬称は省略する。中島知子。一時期は「オセロの黒い方」という言い方をされることの多かったタレントさんだ。

 敬称を略す意図についても説明しておく。
 これは、私の個人的な受けとめ方に過ぎないかもしれないのだが、この種のネガティブな話題(女性の「恥」に属する話)を敬称付きで紹介すると、記事の印象がかえっていやらしくなると思うからだ。

 実際、女性週刊誌は、容赦無くスキャンダルを暴き立てるモードに入ると、敬語の使い方に磨きがかかる印象がある。なんというのか、呼称を挟むことで、書き手が舌なめずりをしている姿が浮かびあがってしまうのだ。

「見る影もなく太った中島さん(40)の顎にはくっきりとしたシワが刻まれ……」
「近所の主婦によれば、半年ほど前にコンビ二に現れた時の中島さん(40)の服装は……」

 おそらく、残酷なことを書いているという記者の自覚が、敬称を呼び寄せている。で、結果として、記事は、笑顔で蹴飛ばす感じの陰険な文体を獲得するわけだ。

 どっちにしても、泥水の中に落ちた人間に対して、わざわざ敬称を付けた描写を採用するのは、悪趣味だ。敬称の分だけ、書き手との高低差が強調される。ということはつまり、記者はより高いところから見下ろしていることになる。余裕の下目使い。中島知子がかつてその漫才芸において、相方に向けることで笑いを取っていた視線だ。

 中島に関連する噂は、2年ほど前から、週刊誌の特集ネタとして断続的に取り上げられていた。失恋。激太り。情緒不安定。

 激太り――とは、それにしても、なんという無慈悲な言葉であろうか。いったい誰が発明したのだろう。流行語大賞にノミネートされなかったのはなぜなんだ?

 芸能部のデスクが採用している倫理基準からすると、人前に出る女性が一定の限界を超えて肥満することは、それ自体がスキャンダルになる。背景には、おそらく、「視聴者の美意識に対する暴力」ぐらいな法解釈が介在している。

 彼らの感覚では、画面に映るだけで法外な収入と知名度を得ているテレビタレントは、その特権に見合う努力と天性を提供せねばならない。画面の中で太ったり禿げたりしていいのは文化人の先生方だけ、と、現場ではそういう決まりになっている。だから中島の激太りは、あれは、テレビ的な文脈から判断するに、一種の契約違反だったのである。なるほど。

 で、ここへ来て、「休養」名目で先延ばしにされていたレギュラー番組(2つほど残ってたいた)の去就が「降板」というカタチで落着すると、中島の話題は、テレビ画面においても一斉に解禁されたわけだ。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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