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「絶対的な下層はつねに笑う」~『ドン・キホーテ』

笑う[8]

2012年3月1日(木)

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『ドン・キホーテ』の笑い

 有名な『ドン・キホーテ』は滑稽文学として描かれた。騎士の時代が終わった一七世紀の初頭になって、まだ中世の騎士道に憧れて、それを実践する人物を描いた小説であり、朗読されたところではどこでも大笑いを巻き起こしたという。

 当時の読者にはほんとうに滑稽だったのだろう。ぼくたちにはあまりピンとこないところもあるが、明治時代の半ばになって、まだちょんまげをつけて、刀らしきものを携えて、武士の誇りをちらつかせる人物の物語が書かれていれば、同じような笑いを誘ったのかもしれない。

カーニバルの笑い

 それでもこの物語にはいくつもの重層的な笑いが仕込まれているのは、読んでみるとすぐに分かる。一つは中世の民衆のカーニバル的な笑いである。このカーニバル的な笑いは三つの層で感じとられる。第一はラブレーにみられたようなドタバタ劇が何度でも登場することである。ドン・キホーテは自分が騎士であるという思い込みによって、毎回こうした騒動を引き起こし、また騒動に巻き込まれる。

 最初の有名な場面、ドン・キホーテが風車を巨人とみなして突撃する場合では、「彼が翼目掛けて一槍くれると、風はおそろしい勢いで翼を回したものだから、たちまち槍は粉々にくだけ、あまつさえ馬も乗り手ももろともに後ろへほうり出したので、みじめにも野原をごろごろと転げて行った」[1]のだった。

殴りあい

 これは騎士の一人芝居だが、このカーニバル的なドタバタが集約されているのが、勝手に城だと思い込んだ宿屋で、女中のマリトルネスと一緒になって四人、五人でくんずほぐれつの大騒ぎをする場面だろう。ドン・キホーテは彼女を奥方と信じ込んで、口説き倒す。もともと彼女はそういうときには、夜に相手の寝室に忍び込むのを常としていたので、「いくらでもいうことをきいてあげようと約束を与えていた」[2]

 ドン・キホーテはそれを信じてずっと待っている。彼女がやってくると、「彼には腕の中に美の女神を抱いているとさえ思われた」[3]のだった。そしてドルシネア姫に捧げた忠誠の誓いさえなければ、「千載一遇の幸運をむざむざと取り逃がすほどのうつけものの騎士ではないつもりです」[4]と意味のわからないくどき文句を語っている。それを聞いていたのが、彼女への「けがわらしい欲望に寝もやらずにいた」[5]馬方だった。

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「「絶対的な下層はつねに笑う」~『ドン・キホーテ』」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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