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『ドン・キホーテ』のアイロニーとユーモア

笑う[9]

2012年3月8日(木)

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アイロニーとユーモア

 前回は『ドン・キホーテ』の笑いが中世の民衆的なカーニバルの伝統に根差すものであることを確認してきた。ただしすでに指摘したように、この作品の笑いは重層的なものであり、別の次元の笑いも考えることができる。それは作品を読んだときに、読者のうちにわき起こる笑いであり、これは作品の目指す笑いとは違う種類の笑いとして、笑いのメカニズムを分けて考える必要があるだろう。

 この観点から興味深い論点を示しているのは、牛島信明『反・ドン・キホーテ論』だろう。この書物では『ドン・キホーテ』の笑いをアイロニーとユーモアという二つの概念で分析する。それによると、アイロニーとは基本的に、作者の側から作りだす笑いの原理であり、ユーモアとは読者の側で生み出される笑いの原理である。

 牛島によると「アイロニーとは、ユーモアをかもすための文体的な手段」[1]であり、ユーモアとは「アイロニーの個々によってかもしだされる感興であり、情調であり、雰囲気である」[2]ということになる。アイロニーという原因によって、ユーモラスな読後感という結果が生まれるというわけだ。

 ぼくはこの原因と結果という関係とは違う側面からアイロニーとユーモアについて考察したいと思っているが、類書の中ではもっとも包括的な考察なので、この著書によりながら、読者のユーモアをかもしだすために著者が利用しているアイロニーの手段を分析してみることにしよう。牛島は、この書物におけアイロニーをまず「演劇的アイロニー」、「状況のアイロニー」、「言葉のアイロニー」に分類している。

演劇的アイロニー

 これは演劇の筋そのものによって生まれるアイロニーであり、「観客には分かっているのに、登場人物は知らないことになっているアイロニカルな状況」[3]である。たとえば風車の場面では、ドン・キホーテは風車が巨人だと信じ込んでいる(ことになっている)。しかし著者とともに、ぼくたちもサンチョも、それが風車でしかないことを知っている。それだけにドン・キホーテの猪突猛進ぶりが、読者を笑わせるのである。

 そしてドン・キホーテの滑稽な姿に笑ったあとで、ドン・キホーテが言い訳をして、魔術師がドン・キホーテに巨人を征服する名誉を与えたくないために、「あの巨人どもを風車に変えおったのだ」[4]と弁明するところで、もう一度笑い転げる。魔術師というものは、現実を非現実に、すなわち風車を巨人に変えるから魔術師なのであって、非現実を現実に、すなわち巨人を風車に変えるのは魔術の敗北を示すものだからだ。

コメント1件コメント/レビュー

このコラムのテーマが「笑い」になってから、戸惑っています。なぜならここに出てくる例のどれもが私にとっては到底笑える代物ではなく、逆におぞましさすら感じてしまうからです。特にセルバンテスやラブレーの「笑い」はまったく理解できません。ただひとつ、「道化のアイロニー」だけは頷けましたが。これは私個人の資質の問題なのか、それともこれまで取り上げられた時代の問題(空気?)なのか、気になるところです。(2012/03/08)

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「『ドン・キホーテ』のアイロニーとユーモア」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

このコラムのテーマが「笑い」になってから、戸惑っています。なぜならここに出てくる例のどれもが私にとっては到底笑える代物ではなく、逆におぞましさすら感じてしまうからです。特にセルバンテスやラブレーの「笑い」はまったく理解できません。ただひとつ、「道化のアイロニー」だけは頷けましたが。これは私個人の資質の問題なのか、それともこれまで取り上げられた時代の問題(空気?)なのか、気になるところです。(2012/03/08)

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