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「毒舌姫」が結婚して退屈な人物になるまで

笑う13~シェイクスピア『空騒ぎ』

2012年4月5日(木)

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『空騒ぎ』

 さてこれまで、笑いの三つのタイプ、アイロニー、ユーモア、ウイットを考察してきたが、シェイクスピアの劇に登場する道化たちも、それぞれこの笑いのタイプで分類することができる。すでに指摘したように、喜劇ではウイットの道化が多く登場し、悲劇ではユーモアの道化が登場する。『リア王』のほんらいの道化について考察する前に、シェイクスピアが得意だったウイットの道化について、『空騒ぎ』からもう少し考えてみたい。

 一五九八年頃に執筆され、すぐに上演されたとされるこの『空騒ぎ』は二つのタイプの道化の競演する劇である。道化そのものではなく、日常生活で道化の役割を演じている男女がたがいに道化ぶりを競いあうのだ。劇の冒頭で、凱旋してきたアラゴンの領主の一行を迎えたメッシーナの知事レオナートの一行のうちにいる知事の姪のベアトリスは、伝令に「あの大法螺さまもお帰りになりまして」[1]と尋ねる。彼女が気にしているのは、「いつも陽気な戦争とでもいうか、会えば決まって頓智合戦になる」[2]相手であるベネディックである。

 この二人は周囲の人々から愛されているが、それは二人が道化的な役割を演じて、人々を楽しませているからである。この二人が道化に近い存在であることは、ベネディックが「メッシーナの辻々に高札をかかげて、キューピッドに遠矢の試合を挑みましたのよ。ところがそれを読んだ伯父の家の道化が、キューピッドに代わって矢面に立ち、半弓で勝負を勝ってでたってわけ」[3]という説明からも明らかである。ベネディックは愛の神であるキューピッドに挑戦し、道化がその挑戦におうじたのである。

 またベネディックがユーモア的な道化であるのは、「毎月のように盟友の契りを結んで」[4]、相手から惚れこまれるというところからも、うかがうことができる。そしてベネディックに惚れこんだ相手は、「厄病神にとりつかれたようなものだわ、あの人ときては、災病よりもすばやく乗りうつり、うつされたほうときては、たちまち気が狂ってしまうのだから」[5]という。愛される道化なのである。

 ベアトリスがまた道化的な人物であるのは、ベアトリスはベネディックが今度の戦で「何人殺して食べましたの。いえ、何人仕留めましたの。だって仕留めた分は残らず食べてみせるって、私約束しましたのよ」[6]と尋ねていることからも明らかだろう。ただしこの道化はユーモアの道化ではなく、アイロニーの道化、機知が鋭い道化である。

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「「毒舌姫」が結婚して退屈な人物になるまで」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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浜田 健一郎 ANA総合研究所 シニアフェロー・前NHK 経営委員長