• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

リア王が娘に裏切られたことを自覚するまでの道化の手法

笑う[14]~シェイクスピア『リア王』

2012年4月12日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

前回から読む)

道化の手法――謎掛け

 さて今回は本職の道化がリアをやり込め、真実を語りつづけるその手法を調べてみよう。『リア王』の道化はきわめて饒舌である。しかしたんに言葉が多いだけではなく、その手法も豊富である。

 道化の第一の手法は、「なぞなぞ」や謎掛けである。この劇の道化は、真理を語りだす前に、謎を掛ける手法を好んで使う。「なぞなぞ」や謎掛けは、たんに真理を一方的に説明するのではなく、説明する前に相手にその真理を見抜くように挑戦するという効果的な手法である。またときには、道化もその答えを知らないが、別の比喩で真理を語るために、なぞなぞという手法を使うこともある。

 この劇では道化は、主としてこの謎掛けによってリアに語りかける。笑わせることが道化の役割だが、リアは笑うにはあまりに深刻な事態に直面しているのである。最初の謎は、「口のわるい道化と、甘ったるい道化とのけじめは、小僧さん、おわかりですか」[1]である。

道化の第二の手法――「ひっくり返し」

 この謎かけにリアは「知らんよ、若いの、教えてくれ」[2]と素直に尋ねる。そこで道化が使うのが、「ひっくり返し」という中世のカーニバル以来の伝統をうけついだ手法である。王様は道化にすぎないというのである。道化は、「縦縞模様のお仕着せ」を着た自分が口のわるい本物の道化で、リアは「甘い道化」[3]であると喝破する。マクベスの魔女なら、「きれいはきたない、きたないはきれい」[4]と、ただ逆転するだけで説明を一切省くが、道化はその道筋を説明しなければならない。

 「だってほかの肩書きはみんなお譲りになったのだから、もって生まれたのはそれだけ」[5]というのが道化の説明である。リアは王の地位を放棄してしまい、今では娘たちの宮廷で養われている道化にすぎない存在になっているのに、そのことを自覚しておらず、娘に威張り散らして嫌われている。

 だから王は今や三重の意味で道化なのである。第一に、王が王でありうるゆえんの王位を、生前に娘たちに譲り渡してしまったという愚かしさのゆえである。第二に、自分が今では道化のように娘に養われていることを自覚していないという愚かしさのためにである。第三に、その自覚が欠如しているために、娘の宮廷であたかも王のように威張っているという愚かしさのためである。

 ほんものの道化は、道化として、自分の愚かしさと養われているという身分を認識している。これが口のわるいほんものの道化である。王は自分が道化と同じ身分であるという真理を認識できないために、「甘い」道化としか言えないのである。

コメント0

「中山元の哲学カフェ」のバックナンバー

一覧

「リア王が娘に裏切られたことを自覚するまでの道化の手法」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック