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ユーモアは自己維持のための心の武器である

笑う[23]――解放の笑い

2012年6月21日(木)

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笑う[22]――解放と和合の理論から読む)

笑う智恵

 ニーチェにとって、笑いは解放のための手段であるとともに、伝統的的な思考の枠から、そして真理のくびきから解放されたことによって生まれる結果でもある。まず笑いは、自己への批判によって、真理のくびきから解放されるための手段である。『悦ばしき知識』の第一書は、こうした笑いの称賛の言葉から始まる。

 ニーチェは、人間たちを拘束している善と悪のカテゴリーは対立するもののように思われたとしても、どちらも人間の種の存続のためという目的にしたがって定義されていたのではないかと指摘する。善がそうであるように、「他人の不幸をたのしむ意地悪い悦びとか、略奪欲とか、支配欲、そのほか悪と呼ばれるあらゆる本能、それらは種族保存の驚くべきエコノミーの一部をなすものだ」[1]

 ニーチェによると、このことに気づかせてくれるのが、笑う者なのである。道徳について、良心について、宗教について真面目な顔で語る人々、「良心の呵責と宗教戦争とのあの教師たち」[2]は、この本能を深めるばかりであり、人間を生に固執させ、従属を強めさせるばかりである。真に求められるのは、こうした真面目な営みを心から嘲笑する笑う者なのだ。

 必要なのは「個人としての諸君をまったく完膚なきほどに嘲笑できる者」[3]、「諸君が蠅や蛙のような無限に惨めな存在だということを、それが真理だと思いこまされるぐらいしたたかに、諸君の胸に叩き込むことができるような者」[4]、「十全の真理からして笑うとすればそうも笑うだろうように自己自身を笑う」[5]者なのである。

 このように笑う者が登場するとき、初めて「笑いが智恵と結ばれるだろう。そしておそらくそのときは〈悦ばしい知識〉だけが存在することになるだろう」[6]。この書物は、こうした笑いと結びついた知識を模索する書物である。「笑いにとってもなお未来というものが必要である」[7]からだ。

哄笑するツァラトゥストラ

 それだからこそ、最後の人間を超える超人を予感させるツァラトゥストラは哄笑するのだ。「ツァラトゥストラは予言する。ツァラトゥストラは笑って予言する。がまんできない者ではない。絶対者ではない。縦に横に飛ぶことが大好き」な者なのだ[8]

 ツァラトゥストラは、この超人にいたる認識の過程において、大いなる笑いが不可決であることを強調する。永遠回帰の思想を予感したツァラトゥストラは、道路に羊飼いが横たわっているのを幻視する。この羊飼いの喉には蛇が入り込んでいて、彼に噛みついている。ツァラトゥストラは、「噛み切れ!」と叫ぶ。そして羊飼いはこの助言にしたがって蛇を食いちぎる。そして変身する。

 「もう羊飼いではなかった、もう人間ではなかった。変身して、光に包まれていた。そして笑った。この地上でこれまでどんな人間も笑ったことのないような笑いだった」[9]。まだその笑いが訪れていないツァラトゥストラは、この笑いに憧れる。「その笑いへの憧れに、俺は蝕まれている。おお、どうやって俺は生きることに耐えるのだ!」[10]

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「ユーモアは自己維持のための心の武器である」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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