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一本を取って勝つことと金メダルを取ること

2012年8月3日(金)

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 毎度のことながら世間はオリンピック一色だ。
 まあ、4年に一度のお祭りなのだし、2週間限定だと思えば我慢できない騒ぎでもない。

 個人的には、五輪報道ラッシュのおかげで、このひと月ほど執拗にオンエアされ続けてきたいじめ自殺関連のプライバシー掘り返し報道が収束したことが、収穫だと思っている。テレビの中の人たちは、いじめ自殺について、必ずしもその意義を考えて放送していたのではない。単に数字が取れると判断しただけだ。だからこそ彼らは、WHOのガイドライン(WHOが自殺報道について世界中の報道機関に向けて出しているガイドライン:日本語訳はこちら)を無視して、延々と関係各方面にテレビカメラを持ち込んでいたのだと思う。

 彼らは、もっと良いネタがあればそっちに移動する。獲物を追うジャッカルと一緒だ。オリンピックはそういう意味で、害の少ない、エサだと思う。多少やかましいところはあるが、誰が傷つくわけでもない。

 とはいえ、今回のオリンピックについては、実は、ほとんどリアルタイムで視聴していない。

 中継放送のクライマックスがおおむね深夜の時間帯に偏っている事情もあるし、正直な話、五輪標準のニッポン万歳な空気に追随することができないからだ。出征兵士を見送る演説みたいな調子の放送原稿にも同調できない。だから、特に民放の五輪中継はほとんどまったく見ていない。

 で、結果として、男女のサッカーを追いかけているほかは、ツイッターのタイムラインで気になった競技についてだけ、録画を確認するという感じで対応している。
 スポーツ中継は、録画で見ると、5分の1の視聴時間で事態を把握できる。スリルを味わうことはかなわないが、経過を知るには十分事足りる。効率的だ。が、これをやっていると、然るべき熱を欠いた観戦記憶が脳内に蓄積されることになる。これは、長い目で見て、スポーツにとって良くない。

 競技はナマで見ないと本当に見たことにはならない。なぜなら、スポーツ観戦の本質は、選手や他の観客とともに一つの時空を共同体験するところにあるからだ。
 録画でも試合経過は把握できる。細かいプレーについては、むしろVTRをスロー再生した時の方がわかりやすいかもしれない。でも、技術分析や戦術解析をどんなに洗練させたところで、ゲームが流れている時間の興奮を録画から味わうことはできない。冷凍の切り身を食べたところで、釣りの楽しみが再現できないのと同じことだ。

 これから書く話は、私がナマで見た競技についての感想ではない。
 だから、ちょっとひねくれている。
 結果を知った上で、細部を確認するために録画を見る観戦者は、斜め上から見下ろすみたいな視線で、競技を解剖しにかかる。
 それゆえ、録画観戦は、素直な感動を生まない。どちらかといえば、変にうがった、批評的な感慨をもたらす。
 これから私がここに書く感想は、あくまでも事後の観察に足場を置いたものだ。ナマで動いている試合を見た人間の、生きた感想ではない。そう思って読んでほしい。

コメント49

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「一本を取って勝つことと金メダルを取ること」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官