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ワイルドでは生きていけない。マイルドでは生きていく資格がない。

2012年8月10日(金)

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 「マイルドセブン」が名称変更に踏み切るのだそうだ。

 8月8日付の「朝日新聞デジタル」は、「看板商品、名前より販路 JT、マイセン廃止し欧州開拓」という見出しで記事を掲載している。

 「マイセン」という略称は、ふつうに使われている通称なのだろうか。私は、はじめて見た。高級陶磁器のメーカーにそんな感じの名前があった気はするのだが、タバコの商品名であることに気づくまでには、二秒ほど時間がかかった。

「おお、マイルドセブンか」

 そう。マイルドセブン。JTの稼ぎ頭だ。トヨタで言えば(かつての)カローラ、ホンダで言えば(かつての)シビックに相当する。こういう銘柄の名前をいきなり変えてしまって良いものだろうか? 相手が嗜好品だけに、ファンの反発は小さくないと思うのだが。

「マイルドセブンでなくなるんなら、いっそタバコごとやめてやる」
「そうだとも。ちょうど良い機会だ。禁煙してやるわ」

 てな調子で、禁煙に踏み切る消費者がごっそり出……ないことを、JTはたぶん熟知している。

 現今の如きスモーカー受難の時代に至ってなお、いまだに喫煙習慣を固守している愛煙家は、本物だ。彼らは、500円が700円になっても、喫煙スペースが阿片窟扱いになっても、ショッピングモールのタバコ自販機設置コーナーが資源ごみ集積場と生ゴミ搬出口の間に移設されても、それでも決してタバコをやめない。そういう人たちだ。JTは自分のところの商品のターゲット層が、どういう人間であるのかについて、常に適切な洞察を抱いている。彼らはジャンキーだ。絶対にタバコをやめない。よしんば肺がんになっても、だ。

「そりゃ、禁煙すればガンが治るっていうんならやめるけど、そういうわけじゃないんだろ?」

 おっしゃるとおりです。
 どっちにしても、命を賭けていない人間が、命を賭けている人間に説教をすることはできない。了解した。あなたはタバコをやめない。私は何も言わない。私たちは共存するほかにどうしようもない。

「だからさ。原発と一緒だよ。今吸ってる連中が順番に死ぬまでは、スモーキン・クリーンは達成されない。それまでの間、われわれは喫煙者と共存して行くほかにどうしようもないわけさ」
「でも、原発は最低限電気を作ってるけど、あの人たちはケムリ以外に何を生産してるんだ?」
「それは言わない約束。オレらにしたところで社食のB定食を排泄物に変換する以外にたいした仕事をしてるわけでもないだろ?」
「えらく謙虚だな」
「まあ、直属の上司がヘビースモーカーだとこういう人間になるってことだよ」
「なるほど。副流煙は人間の魂を腐らせるわけだな」
「いっそ自分で吸う方がマシかもしれんな」

 記事によれば、改称の背景には、欧州連合内の各国において、タバコの商品名に、「マイルド」「ライト」といった、有害性に関して誤解を与える言葉の使用が禁じられている事情があるのだという。つまり、JTは、市場の縮小が続いている国内市場から視点を転じて、欧州市場に進出する近未来を睨んでいるということだ。なるほど。

 新しい名称は「メビウス」(MEVIUS)。奇妙な名前だ。「メビウスの環」のメビウスとはスペルが違う。メビウスの環のメビウスは、ドイツの数学者の「アウグスト・フェルディナント・メビウス」から来ている。スペルはAugust Ferdinand Mobius。英語表記では、MoebiusもしくはMobiusになる。ちなみに、「MEVIUS」という単語は英語の辞書には載っていない。シャープのパソコンのブランド「MEBIUS」とも違う。そこのところは、登録商標を気にしたのかもしれない。どっちにしても奇妙な名前ではある。

「メビウスの環から持ってきたんだとすると、『ねじれてつながっている』ぐらいな含意かな?」
「『ひとひねり』ぐらいじゃないか? シャレたつもりで」
「むしろ『表裏一体』を示唆してるんだと思うぞ」
「どういうことだ?」
「つまり、右手でタバコを売っておいて左手で医薬品を製造・販売している社の現状を鑑みるに――ってなことだよ」

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「ワイルドでは生きていけない。マイルドでは生きていく資格がない。」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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中谷 巌 「不識塾」塾長、一橋大学名誉教授