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ウは鵜飼いのウ

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2012年9月21日(金)

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 原稿を書く仕事をしていて困るのは、書く内容が見つからないことではない。
 材料はいくらでもある。テーマも切り口も、それこそ売るほどある。
 とはいえ、だからといって、現実には、無限に原稿が生産できるわけではない。

 厄介なのは、書きはじめてみて、自分の書いた原稿が気に入らない時だ。いったんそう思うと、続行はかなり困難になる。気持ちが萎えてしまう。

 ダメな原稿は、書き出しの10行ほどで、なんとなくわかる。
 もう少し書き進めてみて、どうやら本格的にダメらしいということが判明してみると、もはや先に進むことは不可能になる。色々といじくりまわしてみても、どうにもならない。ダメなものはダメだ。
 というわけで、そういう原稿は、テーマごと捨てるほかに処理のしようがない。

 ここまで書いた以上、なぜダメなのかについても、種明かしをしておく。
 ダメな原稿がダメな理由は、実は、自分の原稿じゃないからだ。

 一見、うまく書けているように見えても、アイディアの根本のところが、誰かの書いた本の焼き直しだったり、雑誌の記事の再構成だったりすると、やっぱりうまく行かない。というよりも、ほかならぬ自分が、好きになれない。

 一方、他人の目にはつまらない原稿に見えているのだとしても、自分のアイディアが反映されているテキストなら、私は納得する。私はそういうタイプの書き手だ。すなわち、原稿の完成度よりもオリジナリティーを重要視しているということで、別の言い方をすれば、私は独善家なのかもしれない。

 だから、資料を集めすぎると、ほぼ必ず失敗する。
 もちろん、原稿を書き起こすにあたって、周辺事情について勉強することや、一次資料に当たることは、必要な段階ではある。特に、時事的なできごとや、政治経済にかかわる問題を扱うためには、最低限の知識はあらかじめアタマの中にインプットしておかなければならない。

 でも、あんまり材料を集めすぎると、資料に振り回されることになる。
 一人の人間が一定の時間内で消化できる情報量には、おのずと限界がある。その臨界量を超えた情報は、未消化なまま、垂れ流しにされる。
 と、結果として、他人の書いたテキストを並べ替えて書き写しただけの、学生のレポートみたいなものができあがってくる。

 それはそれで、まったく価値の無い文章ではないのかもしれない。でも、私は気に入らない。プロの書き手として、恥辱を感じる。

「どうしてオレが他人の考えを書き起こさないとならないんだ?」

 そう思ってしまうと、もうダメだ。タイピングする指が止まる。先に進むことができない。
 当然だ。私はゴーストライターではない。ピチピチの生命力は無理でも、せめてゾンビぐらいではありたいと思っている。だとしたら、他人の原稿を書き写していて良いはずがないではないか。

 今回は、わが身を反省する意味もこめて、「勉強」について書いてみたい。
 思うに、わたくしども21世紀の日本人は、「勉強」に毒されている。

 われわれはあまりにも安易に勉強して、その結果を、あまりにも単純に吐き出している。その結果、勉強家の皆さんのおりこうさんなご意見が席巻しているこの世界は、むしろ前世紀よりずっと息苦しい場所になっている。

 こんなことが起こっている原因のひとつは、「情報源」へのアクセスが容易になったところにある。
 私たちは、ウィキペディアを常備し、Googleをポケットに忍ばせている。
 で、誰もが事情通みたいな顔をしている。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「ウは鵜飼いのウ」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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手嶋 龍一 作家・ジャーナリスト