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怨みと復讐心を生むどろどろとした感情

嫉妬する[4]――イアーゴーの妬み

2012年11月15日(木)

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妬みの情念

 さて今度は妬みの情念を調べてみよう。すでに嫉妬するときに感じる情念としては、苦痛、屈辱、自己否定、怨念、復讐心などがあることを確認した。妬みのときはどうだろうか。最初に感じるのは、「あの人」と自分を比較したときに生まれる欠落の認識である。あの人にはあれほどの美貌がある。しかしわたしにはそれが欠けている。最初に訪れるのは、自己の劣等の認識、自己否定の感情である。

 この自己否定的な感情はただちに苦痛を生む。その認識そのものが辛いのだ。そしてそれが屈辱の感情を生む。この屈辱に、わたしは対処しなければならない。その道は二つある。一つは、自己を改善し、向上させる道である。嫉妬の場合には、わたしはもっていたものを奪われた。そのために自己を改善するという道はたどりにくかったのである。ともかくかつての状態が恋しいばかりである。

 しかし妬みの感情では、冷静になってみれば、自分が何も奪われたわけではないことが分かる。あの人は美しいかもしれない、しかしわたしはもっと別の方法であの人を見返してやる、と考えることができる。わたしは学問で秀でることができる。スポーツで腕を磨くことができる。そのようにして、あの人と違った分野で、あの人よりも優れた人物になることができる。嫉妬のときよりは、この自己改善の道はたどりやすい。

不条理への怒り

 しかしそうでない場合にはどうなるだろうか。その場合には、不条理にたいする怒りが生まれる。わたしはどうしてあの人のような美貌をもって生まれたなかったのだろうか。わたしはどうして豊かな両親のもとに生まれなかったのだろうか。このときには怨恨の情念が生まれる。この恨みは、嫉妬のときとは違って、「あなた」や「あいつ」などの特定の他者に向けられたものではないという特徴がある。恨む相手は、ときには神であり、時には運命の女神である。

 この恨みの念は当然ながら、復讐心を生む。しかし神に復讐することはできない。運命に復讐することもできない。したがって、復讐する相手は、美貌をもっている「あの人」しかないことになる。このとき、この復讐心は相手の美貌を損ねるという方向に向かうだろう。「あの人」は、このわたしに何も悪をなしたわけではない。ただ美貌で優れているだけである。しかしわたしは妬みによって、あの人の美貌を破壊しようとする。あるいは相手のもっている富を破壊しようとする。

 美貌や富は、人々にとっては善とみなされている財である。その財は、破壊された後は無になるだろう。妬む人はそれが破壊されることを望む。妬む人にとっては、その財は手にいれることができないものである。相手の美貌が手にはいるわけではないのだ。それでもその善を破壊しようとする無意味な欲望に駆られるのである。そのとき、妬みは悪とみなされる。他者には理解しがたい悪しき欲望となるのである。

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「怨みと復讐心を生むどろどろとした感情」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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