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「ぼく」が持ちたいと欲望するもの

嫉妬する[6]

2012年11月29日(木)

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リチャード三世

 シェイクスピアにはもう一人、妬みの怨念に駆られた人物がいる。リチャード三世である。リチャードも、マクベスと同じように、王の地位を狙っている。ただしイングランドでは王位の継承の順序は明確に定められている。王になるためには、妬ましい王だけでなく、その正統な王位の継承者である王の二人の息子たちを殺害しなければならない。そしてこの劇はいかにしてその悪事がなされるかを物語る劇である。

 ただしリチャード三世には一つだけ特異なところがある。それは彼が身体に障害をもって、しかも醜い容貌で生まれついたこと、いかなる女性も愛してくれないとしか思えない容貌であることにたいして、神と運命を呪っていることである。そして彼は自分のこの欠陥のために、あらゆる悪事をなすことが許されていると考えている。リチャード三世は、特定の個人を妬むのではない。自分よりもまともな身体とまともな容貌をもつあらゆる人間を妬んでいるのである。そしてそのことで母親と神を呪うのである。リチャードの言葉を聞いてみよう。

だがこのおれは、このようなやさごとには生まれつき向いていないし、
自惚鏡に向って骨を折るようにはできていない。
おれは下手くそな刻印を押された出来損ないの貨幣だから、
流し目ですまして歩く女の前に出かけてゆくほどの心臓がない。
そんな均整というものを切り取られているこのおれは、
あの「自然」という女神に、ついだまされて、
かたわで、未完成で、月たらずのままで、
ほとんど半分もでき上がらぬうちにこの世に送りだされたのだ。
こんなに不格好で、およそ浮世離れの姿をしているので、
おれが跛/ちんば/をひいてそばを通ると、犬のやつめはおれに吠えかかる。
……[中略]
こんな巧言令色の軟弱な時代を、楽しく暮らすような色男には、
おれは絶対になれっこはないのだから、
おれは決心した。いっそのこと、悪党になってやる。

 この他者への妬みの感情は、これまで考察してきたものとは異なる性質のものであることが分かるだろう。この妬みは、特定の個人を対象とするものではない。ほとんどすべての他者にたいする妬みと劣等感の感情である。フロイトが指摘しているように、彼はこう考えているのだ。「自然はなぜわたしたちに、バルデルのような金髪の巻き毛を、ジークフリートのような強さを、天才の高き額を、貴族のような気高い容貌を与えてくれなかったのか。なぜわたしたちを王宮のうちに[王子として]生まれず、街の小さな小屋の生まれるようにしたのが。そのような[王子の]生まれだったならば、わたしたちがいま妬んでいるすべての人と同じように、美しく、高貴な人間になっていただろうに」[2]と。

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「「ぼく」が持ちたいと欲望するもの」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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