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最大与党を代表して一言

2012年11月30日(金)

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 選挙が近づくと気分が塞ぐ。
 理由は、ウソをつかねばならないからだ。

 というよりも、選挙について正直に思うところを書くと、必ず叱られるわけです。
 この10年ほど、ずっとそういうことが続いてきた。

 投票に関して不用意な本音を吐露すると、必ずや四方八方から集中砲火を浴びるのだ。
 で、謝罪に追い込まれ、改心を余儀なくされ、「次の選挙では、必ず投票所に足を運びます」と誓うことを求められる。

 だから、選挙については、ここしばらく、率直な心情を吐露していない。
 で、気が重いわけだ。

 わかったよ、良識ある市民のふりをすれば良いわけだろ? と、やさぐれた気持ちで路傍の石を蹴る――いい年をした男のやることじゃないとは思いながらも、こればかりはどうしようもない。なんとなれば、酒をやめた時、私は大人であることに伴うあれこれを一緒に放棄したからだ。わがことながら子供っぽい弁解だとは思う。でも、子供っぽい気分の中でしか生き残れない何かを固守する生き方を選択した以上、馬鹿は承知の上なのである。

 つい先日、ある会合で会った若い人に

「最近オダジマさんは、コラムの前段に当たる部分で『馬鹿は承知だ』という意味の弁解を必ず書いているように思います」

 という、大変に鋭い指摘を承った。
 なるほど。
 ぐうの音も出ない。

 が、それでも、馬鹿は承知だという事前弁解を見破られていることを承知の上でなお、私は同じ手順の馬鹿を型どおりに展開する所存でいる。なぜなら、コラムというのは、利口な人々の考えではなくて、馬鹿な人たちの存念を代弁する枠組みであると考えるからだ。

 今回の選挙で、私が投票に行くかどうかは、内緒だ。
 なんというのか、内緒にするだけの世間知ぐらいは、この何年かで身につけたと、そういうふうに理解してほしい。

 で、内緒にする代わりに、ここでは、「どうして選挙について本当のことを言うと叱られるのか」という点についてあらためて考察してみようと思っている。

 さよう。変な話だ。
 でも、これは案外に重要な論点なのである。

 つまり、わたくしどもの社会は、55年体制崩壊以降の政治状況において、常に最大与党の地位を独占してきた「政治不信党」の主張に耳を傾ける努力を怠ってきたわけで、その「政治不信」への関心と愛情の少なさが、現在の政治状況の混迷を招いていると、ちょっと大げさにいえばそれぐらいのことは言って良いはずなのだ。だからこそ私は、「主張しない人々の声」や、「投票しない人間の票」について真面目に考える回路をどこかに確保しておかないと、この国の政治は、この先どこまでも硬直して行きますよ、ということを、この場を借りて、せめて選挙前に言い残しておきたいのである。
 
 われわれは、政治について語る時、賢いふりをしたり、正しいふりをしたりしがちだ。

 その一方で、わたくしどもが政治を通して実現しようとしている思いは、必ずしも正しさや賢さではない。かなり多くの場合、われわれは、政治を介して、復讐や憂さ晴らしみたいなことを企んでいる。もっとはっきり言えば、政治というのは、人々の怨念や嫉妬を実体化させるための、ある意味で非常に俗っぽい装置なのだ。

 にもかかわらず、市民社会の建前では、政治的にふるまうことは、市民としての良識にかなった、崇高な態度であるというふうに説明されている。この実態と理念の乖離が、政治をめぐる言葉を空疎に響かせ、聞いている人間をうんざりさせるのである。

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「最大与党を代表して一言」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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