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60秒間の奇跡

2013年1月11日(金)

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 日本マクドナルドがこの1月4日からはじめたという「ENJOY! 60秒サービス」を、私はまだ経験していない。

 ご存知でない方のために、一応解説しておく。

 「60秒サービス」は、日本マクドナルドがこの1月4日からはじめたキャンペーンで、内容は「会計終了から商品を渡すまでの時間を砂時計で計り、60秒を超えた場合はバーガー無料券を、60秒以内でもコーヒーSサイズの無料券をプレゼントする」というものだ。ちなみに、期間は1月末まで。日本全国のマクドナルド各店で、午前11時~午後2時の間に実施しているのだそうだ。
 
 当初、この話を、私は、まったくの冗談だと思っていた。

 というのも、ファーストフードのチェーン店は、私の知る限り、昔から、心ない都市伝説の宝庫だったからだ。

「◯◯チキンって、アレだろ? もも肉を優先的に確保するために、六本足のニワトリを開発したところだよな?」
「うちの親戚の知り合いが◯◯バーガーに養殖ミミズを卸してるんだけど、何に使うのかと思って、ある日納入後に覗いてみると……驚いちゃだめだぞ……」
「知ってるか? ××のポテトってぶどうみたいに木の枝から鈴なりにぶら下がる品種らしいぞ」
「これ、ホントの話なんだけど、近所に△△のフランチャイズが来て以来、なぜなのか近隣のネズミが凶暴化してて、ヤツら猫を威嚇するわけなんだよ」
「で、◯◯スムージーの原液の中に落ちて、3カ月後に発見された作業員は、なにもかも溶けて、大腿骨の一部しか残ってなかったんだそうだ」

 もちろんみんなデマだ。
 ファーストフードには、そういうデマを呼び寄せる何かがある。

「きのうマックで並んでる女子高生が話してるのを聞いたんだけどさ」

 という決まり文句の後に続く話も、ほとんどすべてデタラメばかりだ。
 現代の人間は、気まぐれな与太話や、もっともらしい駄法螺をアンプリファイする結節点として、ハンバーガーショップを選ぶ。それだけ、ファーストフード店の店頭が、人々に親しまれ、危ぶまれ、愛され、結局のところ隅から隅までよく知られているということなのであろう。

 であるから、この「60秒ルール」のエピソードをはじめて聞いた時、私は

「よくできたデマだ」

 と、感心したのである。
 なにより、

「いかにもマクドナルドがやりそうなキャンペーンだ」

 と思わせる、その力加減が絶妙だと思った。

 アメリカ由来の速度至上主義と日本原産の過剰サービス傾向の呪われた結婚。そのハイブリッドなペーソス。店員をベルトコンベアの末端と考えるロボット流通思想へのそこはかとない皮肉。世界のトヨタが工場生産の中で作り上げたジャストインタイムという究極の効率化哲学を、外食産業という最もアナログなサービスの現場に配置してみせたプロットの見事さ。チャップリンのモダンタイムズを一世紀ぶりにアップデートするネズミ車システムの荒業。素晴らしい着想ではないか。

「ははは。で、60秒で食材を提供できなかった時は、店員がピエロの扮装で土下座をするのか?」
「お前、これ冗談だと思ってるのか?」
「だって、ホントのはずないだろ」

 ところがどっこい、これが、本当の話だったのである。テレビを見るときちんとCMもオンエアされている。

 いや、びっくりだ。
 われわれは、どうやら既に冗談から駒が出る段階に到達していたのである。

コメント37件コメント/レビュー

ほんとうに。だいぶ前からこの過度なサービス競争の行方に危機感を抱いて暮らしています。私は所謂サービス業ではありませんが、「働いて報酬を得る者」であると同時に「対価を払う者」であります。その2者の身分・処遇の格差がどこまでも広がっている世の中で、年々息(生き)苦しさが増していると感じています。都心を走る電車内の放送など、明らかに奴隷がご主人様にかしずくが如き物言いで、とても嫌な気分になります。多分今の子供たちは当たり前に聞き流すのでしょうが。「お客様」という言い方も、以前はデパートとか気取った高級店しか使いませんでした。そこには売り手の矜持もあったと思います。今や親しく「お客さん」というのは失礼に当たる雰囲気ですね。猫も杓子も「顧客満足度」とか言い始めた十数年位前からエスカレートしてきたと記憶しています。今の本邦では、「ひたすら消費する人」が一番尊いようです。(2013/01/11)

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「60秒間の奇跡」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

ほんとうに。だいぶ前からこの過度なサービス競争の行方に危機感を抱いて暮らしています。私は所謂サービス業ではありませんが、「働いて報酬を得る者」であると同時に「対価を払う者」であります。その2者の身分・処遇の格差がどこまでも広がっている世の中で、年々息(生き)苦しさが増していると感じています。都心を走る電車内の放送など、明らかに奴隷がご主人様にかしずくが如き物言いで、とても嫌な気分になります。多分今の子供たちは当たり前に聞き流すのでしょうが。「お客様」という言い方も、以前はデパートとか気取った高級店しか使いませんでした。そこには売り手の矜持もあったと思います。今や親しく「お客さん」というのは失礼に当たる雰囲気ですね。猫も杓子も「顧客満足度」とか言い始めた十数年位前からエスカレートしてきたと記憶しています。今の本邦では、「ひたすら消費する人」が一番尊いようです。(2013/01/11)

人類が大災害を受けたとき、宗教の多くの信心深い信者は、「神がお怒りになっている」などの表現をしますね。多くの人命が奪われる・・或いは奪われる危険が最大化するような事態になってもそれらの不幸な事件に対しても人類は鈍感になっているのではないでしょうか。私は宗教の信者ではないが「神の警告」だと考えている。だから「神がスマイル」した時は、多分人類は全滅していることになるのでは・・・と予想しているので、常々「神にはスマイル」してもらいたくない・・と考えている。断定は出来ないが。(2013/01/11)

3分待ってあげるからゆっくり選ばせて欲しい、と言いたい。(2013/01/11)

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三品 和広 神戸大学教授