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プラトンの蜜蝋と鳩小屋の比喩

記憶する[2]

2013年1月17日(木)

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記憶の三つの位相

 さて、前回も簡単に触れたように、記憶には三つの位相がある。印象の刻印、印象の保持、印象の再生と再認である。第一の位相は、記憶する行為であり、第二の位相は記憶した内容の保持であり、第三の位相は記憶した内容の再生である。第一の位相は何よりも記憶することに注目し、第二の位相は記憶された内容がどこかに保存されていることに注目し、第三の位相は記憶がよみがえる想起に注目する。

 コンピュータのモデルはよく使われる。第一の位相はキーボードなどからのデータの入力である。このデータはランダム・アクセス・メモリー(ラム)に蓄えられる。このメモリーは電源を落とした瞬間に内容を失ってしまう。それでないと次々と新しいデータを入力できないからである。これは人間では短期記憶と呼ばれる。任意の10桁の数字を与えられたら、記憶することはできる。でも電話がかかってきたら忘れてしまうかもしれないし、別の10桁の数字を記憶する必要があったら、忘れてしまうだろう。短期間しか残らない記憶なのだ。

 第二の位相は、データの保存である。このデータはリードオンリー・メモリー(ロム)に記録される。ハードディスクなどの記録装置に書き込まれたデータは、いつでも呼び出せるように保存されている。人間ではこれは長期記憶と呼ばれる。ぼくたちにもどうしても忘れらない記憶、忘れたくない思い出もあるものだ。

 第三の位相は、データの検索である。データは保存されているだけでは呼び出すことはできない。呼び出すためには、その条件を定めて検索しなければならない。ぼくたちも舌の先まででかけていても、うまく思い出せない言葉があったりする。

プラトンの蜜蝋の比喩

 おもしろいことに、プラトンはこの三つの位相について、いくつかの楽しい比喩を使って語っている。第一の印象の刻印の位相をプラトンは心の中の蜜蝋の塊で考える。だれもが心の中に印象を刻印するための蜜蝋の塊をもっているというのだ。初めてソクラテスに出会ったとき、その相手の心の蜜蝋にソクラテスのイメージが描き込まれる。そして次にソクラテスに会ったとき、その蜜蝋に刻印されたイメージと、目の前のソクラテスを比較してみて、「あ、これはソクラテスだ」と認識し、「こんにちは、ソクラテスさん」と挨拶をするというわけだ。

 ところでこの蜜蝋には、人によってそれぞれに違いがある。「人によって、大きいものもあれば、小さいものもある。また材料となる蜜蝋がきれいなものもあれば、それより汚れているものもある。まただいぶ固く乾いているものもあれば、人によっては、かなりしっとりとしたものもある」[1]

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「プラトンの蜜蝋と鳩小屋の比喩」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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