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子供との対話で明らかにした「想起」の力

記憶する[4]

2013年1月31日(木)

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記憶の誤謬

 すでに考察してきたように、プラトンの記憶の理論では、記憶の正しさの問題よりも、記憶の誤謬の問題が重要な位置を占めている。記憶はつねにあいまいなもの、実物とは異なるものなのだ。たしかにぼくたちは昨日の夕食のおかずが五品あったとして、そのうちの一つをどうしても思い出せないことがある。昨日の出来事だと思っていたことが、一昨日の出来事だったりすることもある。記憶とはぼくたちを過たせるものである。

 さらに人間の記憶は自分に都合のよいように作り変えられるものでもある。誰もが都合のよいことしか記憶していなかったりするものだ。ニーチェはこう語っている。「『わたしはそれをやった』とわたしの記憶が語る。『そんなことをわたしがしたはずがない』と私の誇りが語り、譲ろうとはしない。ついに――記憶が譲歩する」[1]

記憶と想起

 しかし記憶はたんにそのような錯誤の源泉であるだけでなく、ぼくたちのアイデンティティを作りだすものでもあることは、すでに確認したとおりである。プラトンもまた、記憶は錯誤の能力であるだけではなく、真理の能力でもあることを認めている。ただし心の中の蜜蝋に、あることを記憶として刻印するという意味の記憶ではなく、かつて記憶したことを想起するという意味においてである。

 記憶の女神はムネモシュネーであるとプラトンは語っていた。この女神は同時に、あるものを思い出す想起アナムネーシスも司る。プラトンの理論では、想起は記憶とは明確に異なる位置づけをされている。記憶の概念では、あるものの似像を記録する能力が重視され、それがいかに正確なものでありうるか、ときにいかに曖昧なもので、人々を誤らせるかが問題とされた。それにたいして想起はプラトンにおいては二つの重要な役割をはたす。

想起の第一の役割

 この問題を考えるために、ギリシアの重要なテーマである知識の問題を考えてみよう。人間はあるものを知っているか、知らないかのどちらかである。知らないものであれば、人間はそもそもそのような知識があることを知らないのであり、そのような知識を獲得することはできないだろう。それを学ぶことはできないことになる。知っているものであれば知識をもっているのだから、それを学ぶ必要はないことになる。

 これはソフィスト的な議論で表現すると、次のようになる。「人は知っていることも、知っていないことも求めることはできない。なぜなら少なくとも知っていることなら、求めもしないだろう。というのは、知っているから、そういう人にはとっては何ものも求める必要がないから。また知っていないことをもまた求めもしないだろう。というのは、何を求めるべき知らないから」[2]

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「子供との対話で明らかにした「想起」の力」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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