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過去の出来事を想起させる嗅覚の力

記憶する[8]

2013年2月28日(木)

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ヘクシスとパトスとしての記憶

 アリストテレスはこの論文の後半で、想起(アナムネーシス)について語っているが、これはプラトン的な不死の霊魂の記憶のことではなく、通常の意味での想起である。想起とは、「ヘクシスとして、あるいはパトスとして内在している」[1]記憶が回復することだという。

 ヘクシスというのは、「もっていること」という意味である。たとえば大工が、実際に道具を使って机を作っているときには、その知識が顕在している。しかし眠っているときにも、大工には机を作る方法についての知識が内在している。これがヘクシスの状態である。

 誰もがきわめて多数の言葉を自分のうちに記憶している。そして必要なときには、その言葉が出てくる。これはある意味で記憶していた言葉を想起することである。どうしても思い出ない形容詞があって、文章を書くときに、それを使いたくても、使えないことがある。「舌の先まで出ているのに」と思って、はがゆいものである。これはヘクシスとして存在しているものが、想起できない状態である。

 これにたいしてパトスというのは、パテーマ、すなわち受けたものという意味である。ぼくたちの心に刻印された印象などであり、この記憶を思い出すのである。その場合には、外的なきっかけで、その印象が復活することが多い。プルーストのマドレーヌの例がいきいきと描写しているように、とくに匂いが過去の時代をまざまざと想起させることが多い。ぼくは正月のからっとした空気の中を歩くと、なぜかパリの下宿生活を思い出す。空気の感じが似ているのだ。

想起のきっかけ

 アリストテレスはこのような想起のきっかけとなるものとして、「似たものとか、反対なものとか、あるいはそれに隣接した」[2]を挙げている。こうしたものをまず考えることで、「それに続くものを追う」[3]のだという。そして似たものを想起するとき同一のものを想起し、反対のものを想起するときは同時のものを想起し、隣接したものを想起するときは、その一部を含むものを想起するという。

 似たものと隣接したものの想起のきっかけは分かりやすいが、反対のものが想起のきっかけになるというのは、そしてそれが「同時」であるというのは面白い。ぼくたちは嫌いな食べ物を見ると、その反対の好きな食べ物を思い起こすことがある。たしかにそれは「同時に」としか言いようがないかもしれない。その連想が逆の方向に進むとしても、一瞬のうちに反対像が浮かびあがるということだろう。

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「過去の出来事を想起させる嗅覚の力」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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