• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

プルーストが重視した無意志的な記憶

記憶する[12]

2013年3月28日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

『失われた時を求めて』と記憶の力

 プルーストの物語は、幼い頃の記憶を探る試みから始まる。主人公は「長いあいだ、私は早く寝るのだった」[1]と書き始めている。そして早寝しすぎて、夜中に目が覚めてしまう。すると目覚めた瞬間に自分がどこにいるのか分からなくなり、部屋の様子からそれを探りだそうとする。

 そのために、かつて住んだ家の寝室を次々と思い出すのである。そして「しまいには、目がさめたあとで長々と夢想をつづけるあいだに、すべての部屋を思い起こせるようになった」[2]のだった。これは自分の記憶をたどりながら、過去の生を想起する営みである。『失われた時を求めて』は、あたかもこうした過去の記憶を想起することで描かれているかのようにみえる。

 もっとも有名なのは、コンブレーの家で、寝る前のママンのキスがいかに楽しみだったか、スワン氏が客として訪れてくると、就寝儀礼における「あの貴重な脆いキス」を自分のベッドで享受することができず、「私はそれをみなの前で、盗むように大急ぎで奪ってしまわねばならない」[3]ことがいかに辛いことだったか、という記憶だろう。

 主人公は、このママンのキスを大切にしていた幼児の記憶を、その背景、人々の性格や癖などともに、周到に想起している。長々と夢想して、自分の過去の生を想起しながら、小説が組み立てられるのだ。

意志的な記憶

 しかしプルーストは、こうした大切な過去の記憶を想起する営みには大きな限界があると考えている。こうした記憶は、過去からいわば知性によって奪いとってきたものである。そしてコンブレーの家や部屋や庭などの記憶は、こうした過去の経験を知性が構成するために「必要最小限度の舞台装置」[4]のような役割をはたしているにすぎないのである。それ以外のことは、すっかり忘れているのだ。

 主人公は、こうした記憶は自分にとっては「死んだもの」だと、次のように説明している。「けれども、コンブレーについて私が何か思い出しても、それは意志的な記憶、知性の記憶によって与えられたものにすぎないだろうし、このような記憶の与える過去の情報は、過去の何ものも保存してはいないから、私には残りのコンブレーを思い浮かべる気も、まるで起こらなかっただろう。そういうものは実のところ、私にとって死んでいたのだ」[5]と。

「中山元の哲学カフェ」のバックナンバー

一覧

「プルーストが重視した無意志的な記憶」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

店長や売り場主任などの管理職は、パートを含む社員の声を吸い上げて戦略を立てることが重要だ。

川野 幸夫 ヤオコー会長