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もっとも忘れやすい言葉は固有名詞

忘れる[1]

2013年5月9日(木)

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記憶すること、忘れること

 これまで記憶することについていろいろと考えてきた。今回から、記憶することの裏の側面である忘れることについて考えてみたい。ぼくたちは多くのことを忘却する。忘却する能力は、ある意味では記憶する能力でもあるだろう。それまでの一生のすべてのことを記憶していたら、きっと新たなことを記憶することはできなくなるだろう。記憶したことは失われないとしても、意識にはあまり上らせないほうがいいのだ。過去を想起することは過去を生き直すことであり、未来に向かって生きることではないだろう。

 それでもぼくたちは思い出す必要のあることでも忘れてしまうことがある。思い出したくてもどうしても思い出せない言葉、舌の先まで出かかっていのに、思い出せない言葉というものがあるものだ。とくにぼくたちが日常生活でもっとも痛感するのは、個人名を思い出せなくなることが多いということだ。いつか『うたかたの日々』という小説を執筆した人の名前を言わなければならないのに、どうしてもその名前がでてこなくて苦労したことがある(もちろんボリス・ヴィアンだ)。

二種類の失語症

 ベルクソンによると、言葉を忘れる疾患である失語症には二種類の症状があるという。第一の種類では、「記憶の喪失は一般に突如として起こる。……記憶力から抜け出る記憶は不特定で、その選択は任意であり、でたらめでさえある。それは若干の語、若干の数字、さらには習得した言語のすべての語であることさえもしばしばである」[1]という。

 第二の種類の記憶喪失は段階的に起こる。この場合には「語は方法的で文法的な順序に従って消失する。……まず固有名詞がおかされ、ついて普通名詞、最後には動詞になる」[2]。どうやら固有名詞というのは、もっとも忘れやすい範疇の言葉らしい。

 ベルクソンは、このように段階的な忘却が言葉の種類に応じたものであるこということから、記憶が脳の一部に書き込まれているという通説を批判する。「脳の内には、記憶が定着し蓄積される領域はないし、またありうべくもない」[3]のである。固有名詞だけがまとめて書き込まれた脳細胞が存在すると考えるのは、いかにも奇妙なことだからである。こうした言葉の忘却は、言葉の記憶が書き込まれた脳細胞の障害によるものではなく、言葉を想起する機能の障害によるものと考えられるのである。

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「もっとも忘れやすい言葉は固有名詞」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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