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伝染する度忘れ

忘れる[2]

2013年5月16日(木)

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隠蔽による忘却

 フロイトが友人のシニョレリの名前を思い出せなかった理由は、詳細な分析によって解明された。ただしフロイトはこのような固有名詞の度忘れには、「ごく簡単な場合と、抑圧によって起こる場合がある」[1]ことを認めている。いつもいつも抑圧が働いているわけではないからだ。

 ごく簡単な場合としては、たんなる隠蔽による度忘れがある。たとえば、思い出すべき単語の代わりに、別の言葉を思い出してしまうと、ほんらいの言葉をどうしても思い出せなくなることがある。最初に思い出した言葉が、もとの言葉を隠蔽してしまうのだ、

 ぼくは最近、前日に食べた食品のリストを作成している。そのときに、名前をよく忘れる野菜の名前があって、ほとほと困ることがある。とくに思い出せないのがレタスである。このレタスの代わりに、セロリやパセリの名前が想起されてしまうと、どうしてもそれに隠蔽されてしまう。もちろんこの場合には、抑圧されているのではないが、セロリやパセリがレタスを隠してしまうのだ。

抑圧による忘却

 抑圧による忘却の場合についてはフロイトは次のような条件をあげている。第一は、その名前自体がそもそも、何らかの意味で度忘れされやすい事情があること、第二は、その直前に何かが抑圧されること、第三に、その名前とその直前に抑圧されたものとのあいだに外的な連想関係が生じること[2]である。

 ただしフロイトは、隠蔽されただけの度忘れと思われても、じつは抑圧が働いていることが多いことも指摘している。そして隠蔽する語がまったく思い付かず、ただ度忘れしているだけのときにも、精神を集中すると、隠蔽している語を「無理にでも思い浮かべることができる」[3]という。このようにして無理に思い浮かべた固有名詞を分析すると、やはり抑圧のプロセスが浮かび上がってくるようである。

自己関係づけによる忘却

 度忘れには、このように死や性など、思い出したくない観念と結びついているという理由で抑圧されるだけではなく、自己に関係づけることで生まれる度忘れがあるとフロイトは指摘する。「度忘れした名前は、ほとんどいつもきまってわたしの個人的なことと深い関係があり、ときには非常に不愉快な感情をもたらすような事柄と結びついていることが明らかになる」[4]という。

 フロイトはある時、電車に乗ろうとして行く先の近くの大きな駅の名前を度忘れしたという。時刻表で調べてやっと思い出したその名前はローゼンハイムというのだった。分析してみると、その直前に訪問した妹の名前がローズだった。だから彼女の家はローズの家(ハイム)、すなわちローゼンハイムだったのである。フロイトは妹のことを思い出したくなかったのだ。そしてこれは自分の「家族コンプレックス」[5]のための度忘れと分析している。

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「伝染する度忘れ」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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