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言葉を失うということ

忘れる[3]

2013年5月23日(木)

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失語症

 さて、固有名詞を忘れることが多いことは、一般的な事実だが、すでにベルクソンが失語症の症状の分析において、身体の動作を示す動詞と対比すると、固有名詞がもっとも先に失われていくことを指摘していた。これからしばらく、言葉を失っていく障害である失語症のメカニズムを考察しながら、言葉を忘れるということの意味を考えてみたい。

 人間が言葉を話せるというのは驚くべき能力である。そのことは、言葉を失っていく過程とそれを取り戻していく過程を調べてみると、まざまざと実感することができる。言葉を失うというのはどのようなものか、想像できるだろうか。ぼくたちはずっと言葉を聞き、話すことになれているので、なかなか想像もつかないことだ。

言葉を失うとは

 たとえばまったく言葉を知らない外国に旅行したとしよう。チェコ語に近い言葉を話すポーランドにツアーで旅行したとしよう。そしてひとりで迷子になってしまったとしよう。周囲の人々の語る言葉は一言も理解できない。書かれた文字も理解どころか、発音することもできない。英語で話しかけても、誰も理解せず、ポーランド語で答えられても、こちらも理解できない。ぼくにとってそれまで自明だった世界が顔貌を替え、まったく見知らぬ世界になってしまうだろう。ぼくは世界でまったく孤立してしまうだろう。

 脳の血管の障害などで、脳の一部に損傷が発生すると、そのようにして言葉が失われ、周囲の人々とのコミュニケーションはまったく絶たれてしまうことがある。ぼくはまともな人間として振る舞うことができなくなり、まともな人間として扱われることもなくなるだろう。この障害においては、言葉が脳から完全に失われたように感じるものだが、失われたのは言葉の記憶ではないことは、障害から恢復すると、ふたたび言葉を話せるようになることからも明らかである。むしろ、言葉を理解し、それを自分の知っている記憶の中の言葉と照合し、自分の言いたいことを考え、それを口に出して語る能力が損なわれるのだ。それはどのようにして起こるのだろうか。

言葉を聞き、語るメカニズム

 ぼくたちはふつうに他人と会話している。この会話というごくふつうの営みは、どのようにして成立しているのだろうか。まずぼくたちは耳で相手の話している言葉を音声として聞き取る。ここで耳とその内部の鼓膜などの器官が損傷していると、言葉を聞く以前に、音声そのものが聞こえなくなる。難聴や聾の状態である。これは失語と同じような障害ではあるが、まったく別のものであることは明らかだろう。

 次にこの空気の振動である音声が、聴覚の神経で、電気信号に変換される。このデータは神経を伝わりながら側頭葉の第一次聴覚野という場所に伝達される。ここに来るまでに、「音の基本的な性質である高低、大小、音色などが分析されているが、最終的にはこの第一次聴覚野で精密な音響分析が行われる」[1]。それまでにすでに高い声だとか、女性の声だとか、ママの声だとか、嫌な声だとかが判断されているらしい。そしてこの聴覚野において、母音と子音などの聞き分けも行われるものらしい。

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「言葉を失うということ」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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