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頭の中に言葉を奪う悪魔がいるような失語

忘れる[5]

2013年6月6日(木)

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発話のメカニズム

 さて、これまでは耳から入ってきた音声が理解できず、失語になる症状を検討してきた。言葉を話すほうはかなり自由に行えるので、「言葉が自走する」傾向がある失語だった。このプロセスをもう一度復習してみよう。鼓膜から入ったきた音声信号は、聴覚神経を通じて聴覚連合野に伝達され、聴覚言語中枢に送られる。そこに障害がなければ、概念中枢において、記憶されている言葉のイメージとマッチングが行われる。ここで行われる作業は微妙なものでまだまだ解明されていないことは多い。

 たとえばとうもろこしの絵を見せられて、「これは何ですか」と聞かれたとしよう。するとぼくたちは頭の中で、これは野菜で、茹でてたべるものであり、夏に実るものであるなどいうイメージが浮かぶ。これはまだイメージであり、概念中枢において、このイメージに該当する単語を探す必要がある。脳の中には「心的辞書」のようなものがあって、この辞書にアクセスして、イメージに該当する単語「とうもろこし」をみつける必要があるのだ。これがどうして可能になるのか、それは記憶がどうして可能なのかということと同じように、まだよく理解されていない。

 それでも、次にこれを発音する必要がある。「と、う、も、ろ、こ、し」という音韻が選択され、これが概念中枢から運動言語中枢に送られる。ここには、発音と構文を運用するプログラムが存在していて、これが口や舌や喉を操作して、「とうもろこし」という言葉を発音させるのだ。

 もちろん「と、う、も」のように語がひとつずつ語られるのではなく、まとまりとある音調をもって語られるのがふつうだ。語尾は下げる必要があるなど、リズムとイントネーションをもって発音されるだろう。それにふつうなら、「これはとうもろこしですね」とか、「あ、とうもろこし、好きですよ」のように文として語られるだろう。

運動障害性構音障害

 人間の身体は、右半身は大脳の左半球によって制御され、左半身は大脳の右半球によって支配されている。脳梗塞などで片方の大脳が損傷をうけると、反対側の手足が麻痺する。しかし発声・発語の器官は、「大脳からの両側性支配」[1]を受けている。そのため、片方の大脳が損傷しても、残りの大脳で制御できるので、発声と発語の機能はそれほど影響を受けないという。それでも両側の大脳で障害が発生すると、この機能が円滑に行われなくなる。そして「とうもろこし」と言えなくなるのである。

 ただしこれは失語ではなく、運動障害性構音障害[2]と呼ばれる。この障害が発生すると、基本的な母音である「あ、い、う、え、お」が発音できなくなり、咀嚼が困難になることもあるらしい。それでもただ、言葉を発することができないだけで、他人の言葉を理解したり、文字を読んで理解することには、不自由はないのである。

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「頭の中に言葉を奪う悪魔がいるような失語」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官