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「われわれは左半球で語る」

忘れる[6]

2013年6月13日(木)

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書くことを忘れる

 これまで聞くこと、読むこと、話すことのそれぞれの営みにおいて、脳に障害が発生した場合に起こる「物忘れ」について考察してきた。言葉が耳からあるいは目から入って、概念中枢に達するまでの「入口」の経路で障害が発生すると、言葉を脳の中の辞書とマッチングさせるプロセスで物忘れが発生する。その代表がウェルニッケ失語で、聞くことと読むことの障害をもたらした。

 これにたいして概念中枢から言葉を発語する「出口」の経路で障害が発生すると、語りたいことを忘れたり、うまく語ることができなくなってしまう。その代表がブローカ失語で、話すことの障害をもたらした。それでは人間の言語能力の四番目の機能である書くことにおいては、どのような物忘れが発生するだろうか。この障害は、ある程度まで予想できるように、ブローカ失語と同じ性格のものである。書くことは、言語表現の「出口」の営みだからである。その障害の実例を見てみよう。

呼称の障害

 この症例は、前の話すことの障害が発生した患者と同じ患者のものである。話す障害の検査が進むと、次に書くことの障害の検査が行われた。患者にある物の絵をみせて、それを漢字で書いてくださいと求める検査だった。これはその対象の名前を呼ぶという意味で「呼称」の検査と呼ばれている。

 この検査ではまず患者に牛の絵が示された。すると患者はすぐに、「牛」という文字を書くことができた。次に机の絵をみせると、「机」という字が書けた。ただし時計の絵をみせると、困ってしまう。そこで検査官は「へん」の部分の「日」を書いてみせると、患者はすぐに続きを書き始めた。ただし「時詩」となってしまった。時計の「計」の部分の言偏は思い出せたのだが、「つくり」の部分が時と同じになってしまったのである。結局、五問のうちで書けたのは最初の牛と机だけだった。

 次に牛の絵を示して、ひらがなで書いてくださいと頼むと、患者はまったく書けない。検査官が最初の「う」の字を書いて、残りを書いてくださいと促しても、「し」は書かれない。机も最初の「つ」の字を書いても、残りを書くことはできない。ひらがなは一問も正解できなかったのである。

 これは前のブローカ失語の話すことの障害と同じである。漢字は表意文字であるために、意味が文字の形で記憶されているのである。机という漢字は、机の絵を見ただけで思い出せるのだ。しかしこの文字に含まれている音韻情報は、忘れたままである。だから「つくえ」と読まれることは思い出せないのだ。「つ」だけ示されても、「つみき」かもしれないし「つくし」かもしれない。

音韻の再構成の障害

 また別の形での障害が発生していることも考えられる。絵を見て、その名前を語るためには、「つ、く、え」という音韻を想起し、次に「その単語を構成している音韻をバラバラしにし、何番目が何という音韻であったか、ということを分析する能力が必要になる。これを音韻の分解・抽出能力という」[1]

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「「われわれは左半球で語る」」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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