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人格の交代でしか切り抜けられないトラウマ

忘れる[8]

2013年6月27日(木)

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解離

 辛いこと、苦しいことを経験した人は、精神に傷を受けるものである。この心的な外傷(トラウマ)は、忘却することによってしか癒すことができない。強制収容所での経験は、心に「忘却の穴」を開けるようにして忘れることによってしか、耐えることのできないものである。プリーモ・レヴィのように、苦しい経験を記録し、記憶に蘇らせる強さをもった人でも、やがては自殺によってその経験を抹消せざるをえなかったことを考えると、こうしたトラウマの強さには身震いがするほどである。

 強制収容所の経験ほどではなくても、人間は幼い頃から多くの辛い経験をすることがありうる。そうした経験を癒そうとして、空想のうちで、別の自分を思い描いたりすることが多い。それが「解離」と呼ばれる症候である。こうした症状を起こしている患者では「幼少時から活発な空想活動をしていることが多く、多くの時間を空想のために使っている。主人公が自分であることもあれば、ほぼ同年齢の同性の子供であることも多い。人物像は詳細に設定され、物語はかつ具体的かつ数か月間持続的に信仰してゆく」[1]という。

 ある患者は次のように物語っている。「小学校、五、六年からずっと持続的に空想している物語がある。主人公はハルカちゃんで、彼女の成長物語を空想するんです。ハルカちゃんは目の前でいとこが二人誘拐されてしまったんです。一人は行方不明になって、一人は強姦されてゴミ箱に捨てられたんです」[2]

多重人格

 小説のようなすさまじい空想であるが、患者はこうした人物を心の中で思い描きながら、自分の現実の生活の苦しさをそうした人物に転嫁しようとしているのである。こうした空想がたんに空想の人物ではなく、本人の人格の一部として登場するようになると、人格の分裂が発生することになる。これは多重人格と呼ばれた。スティーヴンソンの『ジキル博士とハイド氏』が発表されたのは一八八六年のことで、大評判を呼んだ頃から、こうした現象の存在は知られていたようである。

 ジキル博士は薬を飲むことで、ハイドに変身するのであり、「解離」の意味での多重人格ではないが、異なる人格の人物がひとつの身体を共有するという意味では多重人格と呼べるだろう。精神医学が発達し始めたこの時期から、すでにこの現象は注目され、一九世紀末には多重人格は次のように分類されていた。

(一)同時性多重人格(複数の人格が同時に現れるもの。ごくまれである)
(二)交代性多重人格(複数の人格が交替して現れるもの。これは次の三種類に分類される)。

 A 相互に別人格を認知しているもの(まれらしい)

 B 相互の別人格を忘却しているもの(古典的な症例)

 C 一方通行的に忘却しているもの(片方の人格は別の人格を忘却しているが、別の人格は両方を知っているもの)


(三)人格塊状体(一人の人間のうちに三人以上の多数の人格が宿っているもの)[3]。

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「人格の交代でしか切り抜けられないトラウマ」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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