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日本人が全員「役人顔」になったわけ

コスタリカで虫取り 最終回

2013年8月29日(木)

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 たしか5時半に目を覚ましたはずで、荷物を片付けていたら、6時半だった。一服して朝食、そのあとホテルの敷地を散歩。ホテル前の交差点にサンホセ方向の指示があるからここは郊外らしい。地名はどうやらサンフランシスコである。なにしろサンがつく地名が多い。ローマ教会2000年の歴史で、聖人だらけになったのであろう。

 午前9時に西田さんが迎えに来てくれた。運転手は相変わらずのアルベルト。そのままコスタリカ大学へ。大学構内にちょっとした保護林があって、ナマケモノがいる。もちろんあれこれ虫もいる。もはやなじみになったトゲナシトゲトゲも多い。

 虫屋は生物学部と農学部に所属が分かれており、両者はなんとなく仲が悪い。そういう西田さんの話。よく理解できる。どこでも人とはそういうものである。べつに仲が悪いからいけないというものでもない。碁敵は憎さも憎し、懐かしし、である。現代は平和で、日常に喧嘩が少ない。金持ち喧嘩せずかもしれないが、お互いをよく理解する結果になる喧嘩なら、かならずしも悪いとはいえない。喧嘩慣れしてない若者が増える方が心配である。すぐに暴行傷害になったりするからである。

 大学の標本室を見せてもらう。博物館ではないので、昆虫の標本は多くない。液浸標本の部屋は大きく、当然ながら棚だらけ。哺乳類の頭骨もいくつかあった。ただし気になったのは、どれも下顎がないことである。講義か研究に使っているのだろうか。

コスタリカ大学の標本室を訪れる(撮影:佐藤岳彦)

 液浸標本はいわゆるホルマリン漬け、アルコール漬けだが、いったん漬けてしまうと、なかなか出す機会がない。いつかは利用するだろうという気持ちで置くわけだが、ひたすら溜まる傾向がある。このあたりが標本室の抱える悩ましい問題であろう。昆虫の標本だって同じだが、脊椎動物の液浸標本はとくにかさばる。さらにガラス器に入れるのがふつうだから、地震という問題もある。プラスティネーションが上手に利用できるといいのだけれど、手間とコストの問題がある。

 行きずりの旅行者の感覚だが、大学生たちは街の人たちと雰囲気が違う。さすがにエリートという感じがする。大学の進学率がまだ低いのかもしれない。

 現代日本ではほぼ全員が似たような顔である。ブータンでは官僚が顔ですぐに区別できる。日本人に見えるから、それとわかる。だから私は、現代日本人は全員が官僚顔だと思っている。顔というより、表情というべきかもしれない。「テメエ、ひょっとするとインテリだな」という寅さんの台詞が成り立つ社会は、いわば奥が深いのだが、その意味では現代の日本では、人間の底が浅くなったのかもしれない。

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「日本人が全員「役人顔」になったわけ」の著者

養老 孟司

養老 孟司(ようろう・たけし)

東京大学名誉教授

解剖学者/作家/昆虫研究家。1937年生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室へ。95年東京大学医学部教授を退官し、その後北里大学教授に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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