• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

ホッブズの社会契約のジレンマ

抵抗する[37] 市民革命の思想(12)

2013年11月28日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

ホッブズの社会契約論の役割

 このようにホッブズの社会契約論は、それまでのイギリスの伝統的な法による保護に依拠する理論と、人間の自然の善性と社会性を前提とした大陸の自然法の伝統を一新して、いかなる法にも伝統にも依拠しない原子的な裸で平等な個人を基礎として考えるというまったく新しい理論だった。

 この個人は自然状態において、他者と死を賭けた闘争にはいる。そして他者に殺されたり、他者の奴隷になったりするか、それとも社会契約を締結して、国家のもとで保護をうけるかという避けがたい選択をつきつけられるのだった。これまで何度が考察してきたヘーゲルの主奴論は、ホッブズのこの自然状態における個人の命を賭けた闘争をヒントとして考えられたものだったのである。

 ホッブズがこの社会契約論を構築したのは、みずからも認めているように、イングランドの内戦で、血で血を洗う激しい闘争がつづけられたのを目前にしていたからである。この理論は、いわばピューリタン革命を終結させるための理論だったのである。それだからこそ、独立派のアイアトンは、個人の平等を主張するレヴェラーズに対抗して、この自然権の理論を暗黙のうちに提起して、自然権を主張するならば誰もが自分の欲望を満たそうとして、すべての人が他者の財産を狙うアナーキーな状態になると指摘できたのだった。

囚人のジレンマ

 しかしこの契約論には、いくつかの重要な問題点があった。この理論の要は、すべての当事者が自己の自然権を放棄するというところにある。もしもわたしが放棄すると約束して、相手が同時に放棄しなければ、わたしは相手に殺されてしまうだろう。ホッブズの理論では、人間はそのような狼として想定されているのである。相手もまた自分で自然権を放棄して、わたしが放棄しないならば、わたしに殺されると考えるだろう。するとどのようにしてすべての当事者が自己の自然権を放棄することができるのだろうか。

 このように、ホッブズの社会理論には、最初から重要なアポリアが存在するのである。

 それはゲーム理論の「囚人のジレンマ」と同じようなジレンマなのだ。このジレンマは周知の理論であるが、ここで簡単にその内容を振り返ってみよう。その罪は決まっているが、微罪である。しかし検察側は二人がもっと重大な犯罪を犯していると疑っている。

 そこで検事が、囚人を一人ずつ呼び出して、ある取引を申し出るのである。二人の囚人が別の重大犯罪について自白すれば、五年の刑で済ませてやろうというのである。両方とも黙秘した場合には、これについては問わず、元の犯罪の刑罰として二年の刑にする。ただ片方が自白し、もう一人が自白しないと、自白したほうは一年で釈放してやるが、黙秘した方は二〇年の刑になるというのである。

コメント1

「中山元の哲学カフェ」のバックナンバー

一覧

「ホッブズの社会契約のジレンマ」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

企業や官公庁の幹部のメールボックスの内容が、まるごと数十万〜数百万円で売られている事例もある。

名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官