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ホッブズの第二のジレンマの克服

抵抗する[39] 市民革命の思想(14)

2013年12月12日(木)

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第二の問題点の解決

 ホッブズの第二の問題点は、国家の創立のためのメカニズムが示されていないことにあった。スピノザはこの問題を解決するために、人間にはある特性が固有にそなわっていることに注目する。それは自分の利益を最大にするためにはどのようにすればよいかと計算する能力である。

 この能力はある意味では理性である。しかしこの理性は、大陸の自然法で前提とされていたような社会を形成する賢明な理性でも、神に与えられた自然の光としての理性でもないことに注意しよう。これはラテン語の理性(ラティオ)のほんらいの意味で、「計算する」理性なのである。この理性は、神のように外部から与えられた光のような性格のものではなく、自分の利益を最大にするためにはどのようにすればよいかと計算する理性なのである。

計算する理性の否定的な働き

 この理性は二つの方向で働く。この理性は否定的な意味で働くとともに、肯定的な意味でも働くのである。まず否定的な意味ではこの理性は、自然状態におかれた自己の無力さを実感する能力として働く。この理性は、「敵意や憎しみや怒りや欺瞞の間にあっては、何びともびくびくした生活をせざるをえない」[1]ことを悟るのである。そして「相互的な援助なしにはきわめて惨めな、理性の涵養もできないような生活をしなければならない」[2]ことを理解するのである。

 自然が人間に健全な理性を与えていれば、このことは最初から理解できたはずである。しかしスピノザは、「すべての人間はまったく無知の状態で生まれる」[3]のであり、誰もが欲望の衝動にしたがって自己を維持しながら生きていること、そして自然状態ではこの惨めな状態で過ごすように運命づけられていることを自明のことと考える。自然は「健全な理性に従って生活する実際の力を拒んだ」[4]のである。この健全な理性の欠如はしかし、社会契約の必然性を証明するものでもある。

 一八世紀半ばの啓蒙の時代にいたるまで、人間は自然の理性がそなわっていて、社会を形成するものであることが主張されつづける。しかしもしも人間にそのような自然の理性があり、自然法が働くのであれば、人間が社会契約を締結して、国家を設立する必要はそもそもないのである。そのような能力が欠如していて、誰もが自分の欲望に忠実に生きようとするからこそ、争いが発生し、不正が行われ、戦争状態になるのであり、これを防ぐ必要があるのである。

 実際に人々が他者の所有と生命を奪い合うような戦争状態が、いまここに実際に存在しているわけではない。しかし誰もがその可能性を想定することができる。これを認めることから、この時代の社会理論が生まれてくるのである。そのような潜在的な戦争状態が現実のものとならないようにするために、社会契約が必要なのである。スピノザの考える人間像は、この戦争状態を前提としながら、それでも自分の利益のために戦争状態の可能性を消滅させる方法として、社会契約を締結するのである。

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「ホッブズの第二のジレンマの克服」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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中村 克己 元ルノー副社長、前カルソニックカンセイ会長