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日本語でみる「遊ぶ」の語義 その2

遊ぶ[2]

2014年1月16日(木)

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遊学

 さて、日本語の「遊ぶ」という語の語義からみた考察の後半部に入りましょう。これまで三つの語義を考えてきました。第一は仕事と対比した遊びで、「真面目」や「有益性」がその反対語でした。第二は仕事に限らず、真面目な営みに対比した遊びで、冗談やおふざけでした。「生真面目」や「生産性」がその反対語でした。第三は労働の重苦しさに対比してある営みの楽しさや軽やかさが強調されるものでした。「うれしさ、たのしさ、のどけさ」がその反対語でした。

 今回考察する第四の語義は、生産性のある仕事ではなく、時間をもっと別の有効な用途のために使う場合です。これはその生産性を否定するものではなく、目先の生産性にこだわらない姿勢を示します。たとえば「遊学」という(おそらく今ではすたれた)言葉がありますね。辞書では「故郷を離れて、よその土地や国へいって勉学すること」という説明が載っています。反対語をあえて考えてみると、「土着性」とでも言えましょうか。

 明治時代には、「洋行」という言葉がありました。「洋行帰り」というと、すぐにでも高い地位に就職できるというイメージがあったようです。「箔がつく」らしいのです。洋行してロンドンに滞在したかといって、それほど大きく変わるものでもないかもしれないのに、何か優れたものに触れてきたかのように思われていたのです。この「遊び」は、コツコツと仕事に励むのではなく、外国の優れた文明を経験することで、一足飛びに高い地位につくことのできる魅力的な遊びでした。

遊びとしての芸術

 第五にこの語義には、芸術活動を遊びとみなす考え方が結びついています。古くは『竹取物語』にこうした遊びとしての芸術活動が語られています。「をとこは、うけきらはず呼び集へて、いとかしこく遊ぶ」(男であれば誰でも呼び集めて、とても盛大に楽しんだ)とあります。辞書では「詩歌、管弦などを楽しむ」と注釈をつけています。反対語は「日常性」「平均性」でしょうか。

 たとえば安土桃山時代に栄えた茶道は、遊びでありながら、その道の達人を一挙に高い地位に引き上げたのでした。千利久の生涯は、こうした達人の一生をわたしたちに示しています。利久はもとは泉の商人の子供に生まれた与四郎でしたが、茶の道を極めることで、秀吉にみいだされました。秀吉が正親町天皇に茶を献じる禁中茶会の折に宮中に入るために町人ではまずいというので、利久という名をいただいたのでした。茶道という、まったく生産性とは無縁な営みが、町人を思いも掛けぬ高い地位にまで栄達させたのです。

 遊びには、労働の生産性を無視した営みであることによって、生産的な活動の卑近さをはらう効果があるように思われたのです。バタイユは、資本主義の時代において、労働の生産性だけが重視されたことよって、富が蓄積されると同時に、その富は「呪われた部分」となって人間に復讐をするのだと考えました。そしてこの富を、そしてその富がその背後に蓄積した廃棄物を、巧みに捨てる手段をみいださないかぎり、その社会は戦争のような暴力的な手段でこれを破壊するしかないと考えたのでした。

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「日本語でみる「遊ぶ」の語義 その2」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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