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幽霊たちは誰を見ている?

2014年2月7日(金)

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 「ゴーストライター」が話題になっている。
 想像をかきたてる言葉だ。
 どうして、創作の場に「ゴースト」が出現するのだろうか。

 人間が何かを書く(ないしは「創作する」)という行為は、本来なら、ほかの誰かが肩代わりできる作業ではない、と、私たちは考えている。
 少なくとも、建前ではそういうことになっている。

「文は人なり」

 と、ことわざにもある通り、文章(をはじめとする、楽曲や絵画や彫刻作品のような「制作物」)は、それを創造した人間の本質を、あますところなく表現する、いわば、作者の分身だからだ。

 でなくても、「創作」という物語の中では、作者と作品は、水と魚のように不即不離な小宇宙を経て、最終的には不可分一体なアマルガム(合成物)を結晶することになっていて、それゆえにこそ、「芸術」と呼ばれる商品の主たる購買層は、もっぱら、創造性の魔法(あるいは「天才」という超越者)を奉ずる人々によって占められているのだ。

 しかしながら、実際には、人は自分の本心とかけ離れた文章を書くことができる。

 というよりも、自己の人格と解離した文章を紡ぎ出すに足る技巧的基盤を備えた書き手を、われわれは、プロのライターと呼んでいるわけで、かように、文は、制作の現場においては、必ずしも人そのものではない。

 どうしてこんな話をしているのかというと、この度の代作事件の顛末を叱る有識者の声を聞いていて、ちょっと皮肉を言いたい気持ちになったからだ。

 たしかに、作曲家チームのやり方は、だまし討ちに近いものだった。
 その意味では、作曲家をはじめ、ウソをついていた人々は報いを受けるべきなのだろう。

 ただ、CDを出荷停止にしたり、音源を配信停止にするのは、罰や責任を求める先としてスジが違うと思う。

 以前にも、大麻を吸引した音楽家のアルバムが販売停止に追い込まれたことがあった。
 あの業界の人たちは、いつも、何かが起こる度に、同じあやまちを繰り返している。

「作者が汚れたことで作品が汚れた。だから販売を自粛する」

 という設定でコンテンツを扱うことは、結果として自分たちの首を絞めることになる。

 どういうことなのかというと、「作者の不祥事を作品の罪として断罪する」思考の先には、当然「作品が純粋であるためには、作者が倫理的であらねばならない」という結論が待っているわけで、このあり得ない(というよりも反・芸術的な)桎梏は、むしろ、制作の現場に欺瞞や虚偽をはびこらせる原因となるに違いないからだ。 

 無論、「現代のベートーベン」だとか「全聾の天才作曲家」であるとかいった惹句を留保無く振り回していた人々の言葉の軽さや脇の甘さを指摘することは容易だし、その惹句にまんまと引っかかった人々の世間知らずを嗤うこともできない相談ではない。

 じっさい、商売はそんなふうに展開され、カモの群れはネギ畑をまるごと背負って大量に飛来していた。

 とはいえ、音楽を聴こうという時に、いったいどこの誰が、理知と懐疑の耳を以て音の連なりに対峙しているというのだ?

 そもそも、誰かの作品に惚れ込むということは、「その誰かについて勘違いすること」を含んでいる。

コメント75

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「幽霊たちは誰を見ている?」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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