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安心していると安全に生きられない

2014年9月26日(金)

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 痛ましい事件が起きた。

 はじめにお断りしておくが、当欄では「神戸で小学校1年生の女の子が殺害された」という以上の細かい内容については触れない。

 私は、この種の事件について、踏み込んだり、分け入ったり、えぐり出したり、警鐘を鳴らしたり、再発の防止を訴えたり、「あなたのすぐそばにもほら」とか言って注意を促すタイプの報道を好まない。ついでに申せば、殺害の手法や、凶器の使い方や、遺体処理の手順や、遺棄に至る事情や、運搬方法や梱包のディテールについて、いちいちCGやら図面を使って、迫真の再現描写を展開する必要があるのかどうかについても、強い疑問を抱いている。

 もちろん、真相を究明することは大切なことだ。
 報道にたずさわる人間にとっては、犯行の詳細を知ることが、すべてに優先するミッションでもあるのだろう。

 とはいえ、取材して、究明して、真相を知ることと、その知り得た事実を読者なり視聴者なりに伝えることは別の次元の話で、後者については、もっと慎重であっても良いのではなかろうか。

 私は、この種の猟奇的な事件に対して、その衝撃に見合うエモーショナルな原稿を書くことがジャーナリズムの使命だとは思わないし、少なくとも、自分のやるべき仕事であるとはまるで考えない。

 というよりも、私は、このテの出来事が苦手なのだ。
 見出しの文字面を見ただけで胸が悪くなる。
 であるならば、目をそらしたい現実からは目をそむけるのがまともな人間だと考える考え方があっても良いはずだ。

 実際の話、捜査当局の関係者でもなければジャーナリズムの戦士でもない人間が、どうして、「真相」に迫り、「現実」に直面し、「リアル」な現場の空気に触れる必要があるというのだ? 寝覚めが悪くなるだけではないか。 

 佐世保の事件(15歳の少女が同級生を殺害した事件)の折り、「再発を防ぐために」という言葉が、それこそ合い言葉のように繰り返されていたことは、いまだ記憶に新しい。

 今回の事件についても、例によって、再発の防止、動機の解明、心の闇のなんたらといったお話が連呼されている。

 思うに、事件について報道している人たちが、外形的な事実を伝えたあとに、その種の建前を開陳したくなるのは、おそらく、彼ら自身が、自分たちの伝えている事件のむごたらしさに辟易しているからだ。
 ひどいニュースを伝えたあとには、せめて前向きな話でコーナーを締めくくりたくなる、と、そういうことなのだと思う。

 あるいは、もう少し意地の悪い見方をするなら、彼らは、自分たちの伝えている事件報道が、興味本位のパパラッチ暴露であり、数字狙いの出歯亀サイコホラーレポートであることを自覚しているわけで、だからこそ、記事の末尾に視聴者の覚醒を促す実践知識や、ハイブローな文明批評を付け加えてバランスを取りに行っているということなのかもしれない。

 容疑者が逮捕された翌日、朝日新聞は、『子ども連れ去り、昨年94件 狙われる下校時間帯』という記事を掲載した。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「安心していると安全に生きられない」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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